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【前半】「香ばしい」はうまい! 川崎寛也さんに聞く“香ばしさの秘密”
2022年11月11日
by 煎茶堂東京編集部
皮目にパリッと焦げ目のついた秋刀魚、ホクホクの石焼き芋。秋の味覚には、何だか香ばしいものが多いように感じます。そして、香ばしいものって、お茶と相性がいい気がしませんか?この記事では、「香ばしい」はなぜおいしいのか、その秘密についてぐっと迫ってみたいと思います。
香ばしさ、と聞いて瞬時に浮かぶ食べ物はいったい何でしょうか?香ばしさと言っても、その種類はさまざまです。肉や魚の焦げる香り、しょうゆや味噌の熟成香、コーヒーの焙煎香、カカオの香り……。この、曖昧な「香ばしさ」とは何か?
その疑問を、味覚や香りなどの食品研究のスペシャリスト、川崎寛也さんに聞いてみました。
教えてくれたのは…川崎寛也さん
1975年兵庫県生まれ。2004年、京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了(農学博士)。同年、味の素(株)食品研究所に入社。21年より食品研究所エグゼクティブスペシャリスト。NPO法人日本料理アカデミー理事。著書に『味・香り「こつ」の科学』(柴田書店)、『おいしさをデザインする』(柴田書店)など。 |
おいしさを感じるメカニズム
香ばしいがなぜおいしいのか?の前に、そもそも「おいしい」とは何か?ということから考えていきましょう。おいしさとは「栄養が摂れた!」という脳の悦びからくるものだと考えられています。だから体に必要なものはおいしい。それには炭水化物、たんぱく質、脂質といった三大栄養素がまず挙げられます。
ただ、これらは非常に分子が大きいので、味覚の受容体にはまらないんです。だから、これらが分解された状態を「おいしい」と感じるということになります。ごはんを噛むと甘くなるように、炭水化物が分解されると糖が生まれます。この甘味を脳は「おいしい」と判断します。
たんぱく質は酵素分解によってアミノ酸、つまりうま味になる。このうま味を人はおいしいと感じるようになったのです。
味覚と嗅覚の密接な関係
口の中には味の成分の受容体があり、味物質がそこにくっつくと脳に情報が届きます。
香りにも受容体がありますが、それは鼻からと、喉からも感じるようになっています。ワインやお茶を飲んだ時に鼻に抜ける香りというのを感じることがありますね。喉からというのはそれです。
一度吸い込んだ香り物質が、肺や気道を経て、それが受容体にくっついて香りを感じる。同時に、喉を抜けているということは、嗅覚情報だけでなく味覚情報も脳に届いています。喉から感じる香りというのは、味覚と嗅覚の情報が組み合わさった感覚で、風味と呼ばれます。
「香ばしい」とひと口に言っても、匂いを嗅ぐだけと、実際に食べて鼻に抜ける香りとでは違うはず。それは、こういう仕組みによるものです。
ところで、味覚というのは体に必要なもの、体に害を及ぼすものを判断するためにもともと備わっているものですが、嗅覚の好き嫌いなどの判断は「学習の結果」だと言われています。
生まれつき「いい匂い」と感じるものはなくて、経験や学習によって、いい匂い、嫌な臭いを区別していくようになる。この匂いの好き嫌いを判断する部位は、匂いの受容体のすぐ近くにあって、その判断は即座に行われます。
そしてその匂いの記憶は、それを感じた時の記憶をすぐに呼び覚ます。これはマルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』にちなんで「プルースト効果」と呼ばれています。
嗅覚の記憶は、おいしいという記憶、それを嗅いだ時の記憶、さまざまな記憶を呼び覚ますきっかけに非常になりやすい。香りと味が密接な関係なのは、そんな理由があるのだと思います。
メイラード反応とカラメル化反応
さて、香ばしいがなぜおいしいかという話ですが、実はこれ、「わからない」というのが今の答えなんです。とはいえ、仮説はもちろんあります。
香ばしさを生み出す代表的な現象が、メイラード反応ですが、これは糖とアミノ酸が加熱などによって反応して褐色になり「香ばしい」香りが発生する現象です。
人間は、世界中どこに行っても糖とアミノ酸を必要とします。その必要な成分が起こす反応だからこそ、人の記憶にも、その食文化の記憶にも、おいしいものとして残っているではないか、それが「香ばしいはおいしい」の理由ではないかと考えられています。
香ばしいとは何かというとざっくり言ってしまえば「褐変」です。茶色く色が変わること。
リンゴなどの色が変わることもありますが、これは酵素的褐変と呼ばれ、香ばしさを生むことはありません。香ばしさを生む褐変(非酵素的褐変)にはメイラード反応と、もうひとつカラメル化反応があります。砂糖(ショ糖)を焦がす、いわゆるキャラメリゼというやつですね。このショ糖の焦げる香りも、甘い香ばしさを生み出します。
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