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西麻布「ISSEI YUASA」による日本の風土と向き合い生まれたイタリアン | 湯浅一生さん・藤田啓介さんインタビュー

2022年10月31日

by 煎茶堂東京編集部

2021年4月、西麻布にオープンした「ISSEI YUASA」。知る人ぞ知る、看板のない隠れ家イタリアンとして話題となった「湯浅一生研究所」が満を持して移転した新店舗です。

本場イタリアで修行を積んだ湯浅一生シェフは帰国後、日本食材の素晴らしさに注目。自ら産地に足を運び見つけた食材を、イタリア料理の技法を駆使してここでしか味わえない一皿に仕立てています。

また料理が盛り付けられる食器には、魯山人、大樋長左衛門など名だたる作家の作品や、現代作家の器が並びます。普段触れる機会の少ない上質な作品を実際に使いながら、その美しさも味わうことができるレストランでもあります。

そんなISSEI YUASAでは、料理とワインを中心としたお酒のペアリングを提案するだけでなく、ノンアルコールとしてワイングラスでいただくお茶や、煎茶堂東京の透明急須でサーブするあたたかいお茶の提供も行っています。

お茶について、支配人兼ソムリエの藤田さんは「お酒を飲まれない方が、テーブルに水だけという空気感を当たり前にしたくなかったんです」「お茶には官能的な香りなど、ワインと共通する部分もたくさんあると感じています」と言います。

その香りや味わいのこだわりは、料理の表現に合わせてワインを中心としたドリンクの提案をしてきた藤田啓介さんの「レストランという体験」へのこだわりや、細やかな気遣いが感じられます。

左から支配人兼ソムリエの藤田さん、シェフの湯浅さん

今回は、湯浅さんと藤田さんに、ISSEI YUASAの料理のコンセプトやお店への思い、そしてお茶の話を伺います。

イタリアンのエッセンスを抽出し、日本の食材で表現する

タリオリーニ 毛蟹と白バイ貝のプッタネスカ

ISSEY YUASAのコンセプト「イタリアン×日本の食材」は、どのように生まれたのでしょうか?

湯浅:僕はイタリアのトスカーナ地方で修行し、帰国後もずっと「イタリアにはない食材は使わない」というスタイルでやってきました。でも、日本にいるのにイタリアのコピーをやっているだけでいいのか?と思うようになりました。

そこで、自分が今いる日本の食材と向き合いながら、イタリアのエッセンスを感じていただけるような料理に仕上げることをテーマにしようと、ISSEI YUASAの前身である湯浅一生研究所をやっている時に決めました。その上で「トスカーナで修行していた湯浅一生はこういう料理を作るよね」と感じてもらえるようなものを作っていきたいと思っています。

イタリアのエッセンスを抽出する時に心がけていることはありますか?

湯浅:食べた人が「あっ、これイタリア料理だね」と直感的に感じてもらえるものを目指しています。たとえば、日本の食材を使っていても、切り方や火入れのしかた次第でイタリアらしさを出すこともできるので。

食材の切り方ひとつで印象は変えられるんですね。

湯浅:フレンチでは野菜をきれいにダイス状に切りますが、イタリア料理はあえて乱雑に切ります。肉の火入れも、表面パリッと焼き上げて中はちょっとレアに仕上げることでトスカーナらしさを演出することも可能です。

食材の組み合わせで表現の幅も無限に広がりますし、常に新たな食材、知らなかったものを探しながら視野を広く持ちつづけたいです。食材によっては表現方法を悩むものもありますし、失敗の方が多いですが、繰り返しやっていくことで今の形が完成してきました。

日本の食材を使ってイタリアらしさを作り出した一皿には、どんなものがあるのでしょうか。

湯浅:うちのスペシャリテで、ピアディーナというメニューがあります。薄い生地に具材を挟んで食べるイタリア版おやきのようなもので、現地だとホタテなどにモデナ風のペーストをのせるのが主流です。

平貝のピアディーナ

湯浅:ISSEI YUASAでは、ホタテのかわりに平貝を使っています。平貝はイタリアにはない食材ですが、豚肉の背脂「ラルド」のペーストと合わさって、食べた瞬間にイタリアと日本の両方を感じられるものに仕上がっています。

ソムリエの藤田さんは湯浅一生研究所時代から一緒に活動されてきたということですが、ISSEI YUASAの料理が日々進化していく中で、ドリンクはどのような存在なのか教えてください。

藤田:ソムリエの立場としては、軌道修正はこちらでしていくので「とにかく作りたいものを作ってほしい」という思いがベースにあります。レストランは、体験を売るエンターテインメントでもあるので、料理に合わせてひとつのストーリーを総合的に考えていきます。

内装や食器もおなじような考え方で作っていて、目に入るもの、肌で触れるものすべてが上質なもの、私たちが素敵だと思える作品を用意しています。器に湯浅の料理が乗ることでお客様のもとに届き、一体となって味わって頂ければレストランとしてこれほど嬉しいことはありません。

お店で扱う器のセレクトの基準はあるのでしょうか?

藤田:魯山人の作品など骨董のものから、現代作家さんの作品までうまくミックスしながら使っています。昔ながらの伝統を大切にしていきたいという思いと、僕たちチームが若いので、若手の方の作品を使いながら一緒に成長していきたいというふたつの思いがあります。

内装も、イタリアらしい白壁の内装にアート作品やテーブル、チェア、どれもこだわりを感じます。

湯浅:西麻布は、美術や骨董をよくご存知で感性が鋭い方が多いです。ISSEI YUASAのアートや骨董品を見た時に、素晴らしいよねと感じてもらえる場でありたいと意識しながらセレクトしています。

ワイングラスで何かを楽しむのもレストランの醍醐味

ワイングラスでいただくお茶。取材当日は煎茶堂東京のお茶を冷茶にして提供していただいた。

お酒を飲まれない方向けに、ノンアルコールドリンクとしてお茶を出されていますが、どのようなお茶を提供しているのですか?

藤田:宮崎県産の緑茶と、紅茶を焙煎した2種類をワイングラスにて提供しています。緑茶はすこし浅いワイングラスで、紅茶は大ぶりなブルゴーニュグラスで香りや味わいを楽しんでいただけたらと思っています。

ISSEI YUASAはお料理とワインの提案がメインだと思いますが、その中でなぜノンアルにも力を入れているのでしょうか。

藤田:ノンアルをご用意しているのは、テーブルの中に水だけという空気感を当たり前にしてほしくなかったという思いがあります。ワイングラスで何かを楽しむことも、ひとつの体験として楽しんでいただきたいです。

ノンアルの中で、お茶を選択された背景はあるのでしょうか。

藤田:ノンアルコールをやろうとするとドリンク自体の説明が必要になり、どうしても情報量が多くなります。料理の説明もある中でそれをやってしまうと、お客さんの負荷が高くなりすぎてしまうのです。

そんな中、お茶は比較的なじみがある飲み物なので情報量が少なく、味わいや香りもしっかりしているのがポイントでした。飲み口や香り、渋み、甘味といった官能的な部分も、ワインと共通するところはたくさんあると感じています。

あとは料理との相性を考えて、酸味や苦味のあるドリンクがいいと考えていました。お茶はワインと同じくタンニンが入っているのと、紅茶は発酵由来の酸が出ているので、そういった意味でも条件をクリアしています。さらにほうじ茶は、火の入ったメイン料理との相性もいいです。

数あるお茶の中から、最終的に提供するお茶の決め手となったものを教えてください。

藤田:やはり、香りにはこだわりました。記憶に残るものは、ほぼ必ず香りが必ず伴います。アルコールを飲まれない方も、ぜひ料理とドリンク両方の香りを楽しんでいただきたいです。

茶葉とミントを美しく引き立てる透明急須

フレッシュハーブティー

ISSEI YUASAでは透明急須も採用していただいていますが、きっかけは何だったのでしょうか。

藤田:弊社の代表と煎茶堂東京の方が元々の知り合いで、ISSEI YUASAのオープンの際に透明急須をプレゼントしていただいたのがはじまりです。

実際に商品を触ってみて、使用感がよかったのと、お店の内装や他の食器とのバランスを考えたときに、アクセントとしてちょうどよく、お店で使うことに決めました。

実際に使用してみてどうでしたか?

藤田:透明な材質ですが、冷たい印象がなく心地よいです。機能的にも割れない、熱くない、スタッキングできて場所を取らないという安心感は大きいです。

また素材的に汚れづらく、たとえ汚れても目立つので清潔感を維持しやすいのもレストランとしてありがたいなと感じています。陶器は少し茶渋がついているだけでは気づきづらかったりもしますが、透明急須はすぐ気づけますし、漂白をかけたら簡単に綺麗になります。

透明急須は、どういったドリンクで使っているのでしょうか。

藤田:食後にデザートと合わせてお茶をご案内しているのですが、そのお茶を淹れるときに使用しています。お客様の前で急須からお茶を注ぐのですが、それを見て、その場でネット検索して買ってくださったお客様もいらっしゃいました。

デザートはどんなものを出されるのでしょうか?

湯浅:夏の時期にお出しするのは、手作りのミルクジェラートとメロンを合わせたデザートです。11皿のコースの後に、すっと食べていただけるようなシンプルなものにしています。その後、お茶をお出しする流れです。

メロンクリームソーダ

コースの最後にさっぱりとしたデザートでお腹を落ち着けた後、ゆっくりする時間に飲んでいただくようなイメージなんですね。そこではどんなお茶を出されるんでしょうか。

藤田:煎茶とミントを入れたものを、スタンダードなメニューとしてお出ししています。「あそこの店のラストは、これが出るよね」という定番の味です。この最後のお茶は、通っている定食屋さんとかでたまに出会う「ここのお茶、なんか美味しい」みたいな、妙に心に残る存在をイメージしています。

定食屋さんのなんでもないお茶が異様に美味しいと感じる体験……たしかにあります。

何茶なのかよく分からないし、すこしクセがあったりするし。でも「あそこに行ったらこれで終わるよね」というのは、ひとつ記憶の残り方としていいなと思っています。

時期によっては焙じ茶とローズマリーの組み合わせにしたり、新茶の時期にはメニューを変えたりすることもありますが、はじめてのお客様には必ずミントのお茶をお出ししています。

レストランでの体験の最後、大事なポジションに透明急須を使っていただけていること、すごくありがたいです。

藤田:透明急須はこのお茶を淹れる時、中の茶葉とミントの緑が美しく映え、視覚的にも楽しめるのもいいなと感じます。11皿のコースの後のお茶も舌で味わうだけでなく、香りやビジュアル含め、五感で味わっていただけるのがISSEI YUASAらしさなのかもしれません。

ISSEI YUASA
住所:東京都港区西麻布1-4-22 アートスクエア西麻布 1F
定休日:日曜日(不定休あり)
WEB:https://www.instagram.com/issei_yuasa_/

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