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「根津 日本酒 多田」で一皿、一杯に秘められた味と物語を知る | 多田修平さんインタビュー
2023年01月27日
by 煎茶堂東京編集部
「日本酒をもっと楽しみたい」「その奥深さに触れてみたい」――そう思うなら、ぜひ一度訪れてみてほしいお店があります。
東京の下町の風情を色濃く残す根津に店を構える「根津 日本酒 多田」は、季節の料理とともに一歩踏み込んだ日本酒の楽しみを教えてくれるお店です。
店主の多田修平さんは、ホテルや日本酒専門店での勤務を経て同店を2015年にオープン。旬の魚や野菜の魅力を活かしたおまかせコースは、知っている食材のはずなのにどこか新しい、多田さんのセンスと遊び心を感じさせてくれます。
そんな「根津 日本酒 多田」では透明急須で淹れた煎茶堂東京のお茶をいただくことができます。
お茶と急須について、多田さんは「お茶も日本酒と同じように楽しんでいただきたい」「透明急須は飲食店こそ使ったほうがいいと思います」と言います。そう語る多田さんのお茶にまつわる知識や、お茶の淹れ方のバリエーションは日本茶専門店にひけをとらないほど。
今回は、「根津 日本酒 多田」の魅力や多田さんの目指す料理、そして日本酒の名店がお茶を提案するその思いを聞きました。
旬の食材を活かす、遊びと視点の“ズラし”がある料理
多田さんはその日の仕入れに合わせて料理を考えているとのことですが、お店ではどのようなメニューが楽しめるのでしょうか。
季節感のある料理が好きなので、その日仕入れた魚と野菜、あとは冬の時期は国産のジビエも取り入れて、その都度メニューを考えます。なので前回あった料理が次はない、ということも多いです。
特に魚は、仕入れたものは個体差が強いのでそれに合わせて刺身にしたり、火入れしたりと臨機応変にやっています。
お魚はどうやって仕入れているのですか?
千葉の卸売市場と京都の魚屋さんがメインで、彼らが「いいよ」というものを買うようにしています。二人とも魚に愛情を持っていて、一緒に仕事がしたいなと思える人たちです。僕は飲食を続けて、彼らは魚を続けていくから、共に成長していい関係を築いていけたらお互いの人生が楽しくなるなと感じています。
素材からメニューを組み立てるとき、どのようなことを意識されていますか。
素材のよさというのは、食材をそのまま出せばお客さんに伝わるということはありません。魅力を最大限伝えるために視点をズラしたり、入り口を作ったりしています。遊べるところは遊んで、だけど食べ終わった後は素材自体のよさを感じられる料理を心がけています。
たとえば、このメニューは冬の百合根のよさを生かした一品です。百合根を蒸してからオーブンで色をつけることで甘みを引き出し、「なんで百合根って甘いんだろう」というのを感じてもらえたらと。根菜は夏は淡白な味だけど、冬は自分を守るために甘味が強くなる、とかに気づくと面白いと思います。
ソースは、麹と“黒えごま”を叩いて味噌と和えています。また遊びで紫蘇と山葵をパウダーにしたもので香りを付けつつ、最後に足りない部分を補う意味で乾煎りしたお茶で苦味と渋みを足しています。
色んな旨味の味わいの要素が入っていますね。
あくまで主役は百合根の甘さで、まわりに楽しめる要素が入っています。だけど全部、馴染みある和の食材で統一しているので、「知っているけど知らない」と感じてもらえる落としどころを考えています。
本日はもう一皿用意いただいていますが、こちらはどんな料理なのでしょうか?
淡路の鯖に塩をして水分を飛ばし、マイナス60℃で冷凍しておいたものを戻して、軽く酢で絞めたものです。醤油で和えた旬の長芋と、アクセントとして『ぬま田海苔』さんの初摘み海苔を日本酒とお醤油、お酢でふやかしたもので和えています。
その上には、酢味噌の代わりにお米を乳酸発酵させて酸っぱくした自家製ソースと、和のハーブで作ったハーブオイルをかけています。
お米のソースの白に鯖や穂紫蘇の色が映えますね。
鯖を食べるとき、刺身に山葵と薬味が出てくるとお客さんにはその時点で「既知の味」となってしまいます。そのよさもあるし、素材によってはそうお出しする時もあります。ただ、あくまで理に即しながらも、更なる可能性や違う見方でその素材の魅力を引き出す料理もお出し出来たら面白いかなと。
そこで最初は料理として、見た目や食感、味覚の組み合わせの遊びでも楽しんで頂いて、食べ進めて最終的に「鯖の美味しさ」に着地すると、新しい角度からその素材の魅力も知る事が出来る、何か新しい経験をしたように感じると思うんです。
よく知っているはずの鯖でも、知らない角度から眺めると「鯖ってこういう見た目でこういう味わいだったんだ」と新鮮な感覚で向き合えるんですね。
ストーリーもひっくるめて、食材やお酒のことを伝える
遊び心満載のメニューが並びますが、多田さんが目指す料理とはどういうものなのでしょうか。
お客さんが楽しくて、ちょっと心が豊かになるような料理を目標にしています。僕は食材やお酒の生産者のみなさんの苦労や努力も知っているから、そういった思いもひっくるめて調理して、必要であればストーリーを伝えながら楽しんでいただきたい。
食べものが作られ人の口にはいる流れの中で、僕はたまたま最後の部分、お客さんに出す場所に立っているだけです。なので「みんなで作ってて、僕の役割はここ」みたいな感覚が一番しっくりきます。
ストーリーを含めて伝えていきたいという思いは、どのようにして生まれたのですか?
お店を始めて、いざ野菜や魚を買ってみたら、知らないことだらけだと気づいたんです。「なんでにんじんは赤いのか」「鯛の刺身はどうしてこんな味がするんだろう」とか。でもそれには理由があって、生産者さんに聞けば答えが返ってきます。
少しずつ教えてもらいながら仲間が増えていって、その中で僕はお仕事をさせてもらっているので、活かせるようにやっていきたいなと思うようになりました。
百合根の甘さに気づいたり、知らない角度から鯖と向き合ったり……遊び心の裏にはそんな背景があったんですね。
飲食店での食事は、言ってしまえばエンタメです。なのでお客さんは堅苦しいことを考えないで食べていただけたらと思います。その中で食材のよさや本質的な部分を活かして面白さを伝えることで、みなさんの心が豊かになるお手伝いができたら嬉しいです。
もちろんお客さんやシチュエーションによって一番に求めるものは変わってくるので、それに合わせた価値提供と柔軟な仕事がその前提だと思っています。
日本酒も同じような思いで提供されているのでしょうか?
そうですね。たとえば、昔はペアリングコースもやっていたのですが「このメニューにはこのお酒」と最初から決めるのは、うちのスタイルではないなと思ってやめました。
ペアリングコースは、多田のスタイルに合わない……?
僕らは、一升瓶の中で変わっていくお酒のストーリーも含めてお伝えしたいと思っています。でもグラス一杯、90mlじゃその良さや味わいを感じきれないお酒もあるんです。
同じお酒で一食通して飲めば、料理が変わるごとに合い方も変わる、そんな楽しみ方をすることもできます。それを全部ペアにするということは、本来もっと楽しめるはずの部分を捨てていく作業でもあります。
料理ごとのペアリングだけでは、気づけないお酒の味わいもあるのですね。
「僕はこの組み合わせが好き」と出していくのも大事ですが、やりすぎるとお店が目指す姿から外れてきてしまう。もちろん料理ごとのペアリングも楽しいし、「この二品にはこのお酒を一緒に」もいい。その選択肢も含めて、お客さんの望み通りにしてあげたいと考えるようになりました。
それにお酒って、一口で飲む量や味の感じ方も人それぞれ違うんです。ゴクって飲む人もいれば、口の中にためる人もいて。同じお酒で同じ味だと思っても、感じるものは全然違います。だからお客さんの飲むペースや楽しみ方、お料理を見ながらその都度出していくスタイルにしています。
お茶も日本酒と同じ感覚で知って、楽しんでほしい
煎茶堂東京の茶葉も使っていただいていますが、どういった経緯で知ったのですか?
日本茶を勉強していたときに見つけました。もともと日本酒やオリーブオイルなども、単一畑・単一品種の原料を使い、その特性が生かされているものを扱いたい気持ちがあったので、シングルオリジンをコンセプトにする煎茶堂東京はそういった意味でもぴったりでした。
お茶に興味を持ち出した背景には何があるのでしょうか。
もともと禅や茶の湯の思想が好きだったのと、生産者さんと話す中でそういった考えが色々なところに残っていると感じたのがきっかけです。
あと僕にとってはお茶も、お酒と同じ感覚だったりします。淹れ方や温度で味わいが全然変わったり、品種や製法で特性が全く違ったり、面白いですよね。むしろ歴史の古いお茶を学ぶことによって日本酒の理解も進むのではと思っています。
現在は常時3〜5種類くらいの茶葉を用意して、あたたかいお茶や冷茶でも楽しんでいただけるようにしています。
日本酒をメインに提供されている中で、それだけ茶葉のバリエーションを持ってらっしゃるのはすごいですね。
アルコールを飲めない人でも食事と合わせて楽しんでもらえるようにしたかったし、選択肢がある方が楽しいので。たとえば、歳をとってたくさんお酒を飲めなくなった時に、お茶という選択肢もあるといいなと思います。
結構、お酒好きの人は「全然違うし面白い」とハマってくれます。最後に煎茶堂東京のお茶でシメていくお客さんも増えました。
初めての方におすすめする茶葉はありますか?
「香駿」は香りも華やかでいいので、よくおすすめします。冷たいお茶を好まれる方も多いので、水出しにしてワイングラスでお出しすることも多いです。
「香駿」の水出しは桜餅みたいなニュアンスもあるので、初めて飲むと普段のお茶との違いに驚く方も多いのでは?
みなさん香りに驚かれて、ハマる方もいらっしゃいます。あとジャスミンのような雰囲気がある「藤枝かおり」の水出しもよくやります。どっしり系がお好きな方には、温かくいれたお茶を急冷してお出ししするのも好きです。
お茶の淹れ方も、専門店に負けないバリエーションですね。お店では透明急須も使っていただいていますが、選んだ理由は?
急須の置き場がなくて省スペースで収納できるものを探していた……というのが一番の理由です。最初は煎茶堂東京の茶葉だけを見ていましたが、「スタッキングできる急須もあるじゃん」と気づいて購入しました。いざ使ってみたら落としても割れないし、洗うのも簡単だし、とても使いやすくて飲食店こそ使ったほうがいい急須だと思います。
あと透明なので、中身が見えるのがいいですね。茶葉が踊っている様子や膨らんでいく経過が楽しめる。茶葉って、それ自体がすごく美しいのですごくリアクションが良いです。
お茶を提供されるとき、心がけていることはありますか?
お茶のよさを知ってもらいたいというのが一番です。僕がずっと不思議だったのが、どうしてコーヒーショップはこんなにあるのにお茶ショップはあまりないのか、ということでした。
でもお茶はもっと当たり前に、日常にあるんです。みんな家や、実家にも絶対ある。けど飲んでいても意識しないし、よく知らない。だからあえて取り上げることによって、再認識できる場所になれたらいいなと思っています。
多田さんのお料理のように「知らない一面」に気づきながらお茶を飲む体験は、その楽しさに気づくきっかけになりそうですね。
みんなコーヒーや紅茶、中国茶に行きがちですが、古くからあるものにもう一回気付くのは大事だと思っています。そうしないと、いつかなくなってしまうので。当たり前にある価値に気づいて守っていきたいです。
根津 日本酒 多田
住所:東京都文京区根津2-15-12 木村ビル1階
定休日:不定休
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