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このへんの傾斜でがらの土のとこは香りもいいです。絶対、香りって大事ですよね 「042 みえうえじま」松田製茶 松田典久さんインタビュー
2020年07月19日
by 煎茶堂東京編集部
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伊勢神宮のお膝元には、葉の成長がはやい早生(わせ)の品種である「みえうえじま」の茶園を持つ農家があります。
過去に品評会で全国1位に上り詰めた「松田製茶」の松田さんは、お茶に携わってから早28年。品評会に出した時のお話やいいお茶を作るための製造のこと、伊勢の土地についてお話をお聞きしました。
話し手:松田製茶 松田典久さん 聞き手:谷本幹人
―――この地域は、伊勢神宮のお膝元ですね。
そうですね。大台町の茶業組合が神宮奉納のお茶を作ったりしてて、来月には伊勢神宮へ奉納するんです。手揉みやね。毎日交代で3,000Lくらい水やりして、茶畑はビニール張りをしています。
ちょうど今日、ビニールかけました。奉納始めたのはたぶん10年くらい前だから、まだ最近ですよね。ほんとちょっとの量ですよ。1反ぐらいの面積ですけど、細かく刈るもんで出来上がりも20〜30kgとか。
―――松田さんは、いつからお茶を?
高校卒業してからですね。今56歳になりますもんで、28年たちました。
地元に南勢茶センターってあるんですけどもそこで仕上げを12年間やってまして、いろんなとこに研修にも行かせていただきました。それで、自分の家も茶畑と製造工場やってますもんで、自分で生産したお茶を作りたいっていうことで、結婚を機に30歳ぐらいで家へ入りました。
もともと、3代前の大祖父さんのときは畑だけ個人で持ってて、工場は共同工場に入ってたんですけど、おやじが僕が生まれたくらいの昭和36年頃に自分とこの茶工場を個人で始めました。
―――確か品評会も出されてますよね。
平成13年に三重県の松坂市で全国品評会があったんです。そのときに全国で1番をもらったことありますよ。けっこう大台町で大臣賞もらっとる人、何人かみえるんですよ。
―――品評会に出したお茶がおいしかったのは、作ってるときから分かりました?
分からんやったけどな。でも品評会入賞しようと思ったら、若い木。若い木は力もあるもんで香りも味もいいし。やっぱそんな茶園を選んで、大事なとこ選んで出したんです。
2年後に品評会があるって分かったから、有機の肥料たくさんやったりして。やっぱり考えますよね。あと、摘みかたも大事です。きれいに揃って摘まんことには製品もそろってできないし。で、揃えて摘もうと思ったらやっぱ手摘みなんです。
―――伊勢はそれこそ手揉み有名じゃないですか。
この地域でも昔は手で摘んどったけど、上手に摘んどったおばちゃんなんかも80、90歳になってきとるもんで、人手が足らんようになってきとんです。そうなると、手摘みはできやんってことになるもんで。
本当のトップ狙うと思ったら管理と手摘み、あとは製造の技術。ちょっと頑張っても無理です。2、3年前の全国品評会も手摘みでなくて機械刈りでやって、結果全国には残らんだもんで。
ほんで静岡の一流の毎年品評会上位入賞してくる方は、本当に命がけで金儲け関係なしに人件費かけて手摘みで出してみえるもんで、そんな人とけんかしたらもう絶対負けますやん。もうけんかしません。分かりますやろ。
―――大台のお茶について教えてください。
伊勢茶の中の大台茶っていうことですね。伊勢茶ってもう三重県全体のお茶を言いますけども。ほんで大台町の茶の歴史っていうのは、北山のほうにある五百羅漢寺っていうお寺に、800年前に中国から栄西禅師が種を持ち帰って、そこら辺の住民に栽培させたんが始まりやと言われています。
特徴は、寒暖差がありますもんで葉肉が厚く、三煎目までおいしく飲めるっていうとこですかね。
―――土質なども特徴ありますか?
石混じりの土のことを“がら”って言って水はけがええんですけど、このへんの傾斜でがらの土のとこは香りもいいです。絶対、香りって大事ですよね。浅蒸しの場合は余計にそう思います。
土質はちょっと場所移動すると違っていて、国道挟んで向こう側は赤い土のとこあったり、自分とこの自宅の前に行くと真っ黒けなところもあるんです。真っ黒な土は、湿っとるもんで干ばつには強いんです。けど仕上がりは香りとか特に、全然違います。
松田さんのお話は立て板に水、落語を聞いているようでカラッと面白い。
―――松田さんのとこのお茶の蒸しは浅蒸しが多いですか。
うちはどっちかっていうたら、中蒸し・深蒸しですね。けど新茶の時期は自分とこでも小売りしとるんですけども、香りを大切にしたいんであまり蒸さんようにしてます。新茶の香りちゅうのはほんとにその時だけですやん。ちょっと急須で出にくいですけどね、そんな感じで、考えながらやってます。
―――いま(3月)の茶畑の状態って秋に刈った状態ですか。
そうですね。木の状態見てみると、もう膨らんどるっていうことは芽が動いとるってことやもんな。真冬はこんなになってないんでな。こういうのを見て分かることは、この芽の数が多いと量が収穫できるかなとか。肥料吸い上げて葉がピカピカ光っておるといいお茶ができそうだなとか。
―――みえうえじまは三重県品種ですよね。
そうです、ここの品種です。三重県のこの大台町で農家されてた上嶋さんって方が自分とこの茶畑の中から一株だけちょっと芽が早う出てくるやつがあって、それを挿し木で地元の農家さんに増やしてもらったのが始まりやって聞いとんです。在来の品種ですね。
芽が早く出てくるし芽数も多いんで、収穫量も取れるんとちゃうんかいなって言うて増やされたみたいです。はっきり分からないけどね。北西のほうにもけっこう広がったみたいだけど、できてから20年前はたってないと思います。
でも、結構すぐ硬化してきます。揉んでみて、ちょっと茎が目立ったりしたらあきませんね。早めに収穫するか、もう被覆して日光を遮っちゃうか。
―――みえうえじまを植えた経緯は?
ここは自分の畑のなかでも山すそで暖かいので、そういう場所にはやっぱり早生(わせ)っていう成長の早い品種を植えると芽が早く出てくるんでいいかなと思って。みえうえじまは他の品種よりも3日か4日ぐらい早いんですかね。
横に植わってるのはさえみどり、これも早生の品種なんで植えました。ちょうどここに植えたのが平成17年だったので14年たってますね。
―――みえうえじまいただいて、すごい個性的でおいしかったんですよ。
なにもかもタイミングが合おたんです。刈るタイミングと製造と天候と。刈るタイミングも、葉が大きすぎても細かすぎてもあかんのです。大きすぎたらアミノ酸少なくなっていくし、細かすぎても色も味ものってこんし。
ほんで明日刈ろうと思うとったんが雨やったら、ちょっとまた変わっていくし。そういう中で、2018年はちょうどうまいこと合いました。おいしかったです、確かに。作っとる人間なんで一番分かります。
でも今年も去年と一緒のように肥料もしやっとたとしても、去年と一緒の茶できるとは全然分からんもんで、もうできてみないと分かりません。去年みたいにおいしい茶ができることを願ってはおるんですが、これだけは分かりません。
お茶の話を「TOKYO TEA JOURNAL」 でもっと知る
このインタビューは、「観て飲む」お茶の定期便 "TOKYO TEA JOURNAL"に掲載されたものです。毎月お茶にまつわるお話と、2種類の茶葉をセットでお届け中。