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作り手のことば「穏やかな日常の傍らにある器が必要」陶芸家・伊藤萠子さんインタビュー
2023年01月13日
by 煎茶堂東京編集部
長野県松本市に窯を構えて作陶する伊藤萠子(いとう・もえこ)さん。建築士である伊藤昌志さんとご夫婦で「余白の造形舎」を立ち上げ、さまざまな形あるものの制作に向き合っています。
今回は、煎茶堂東京での器のお取り扱いに伴い、伊藤さんに器作りへの思いを伺いました。
伊藤さん、今日はよろしくお願いします。早速ですが、器を作ることになったきっかけを教えてください。
大学生の時に、友達が吉村眸さんのお店「Zakka」を勧めてくれました。そこで手にした岩田圭介さんの器「白コロ椀・黒コロ椀」が私と器との最初の出会いであり、陶芸を始めるきっかけとなりました。こんな世界があるんだ!と驚き、心がワクワクしたのを今でも覚えています。
それから松本で開催される、クラフトフェアまつもとへ毎年通ったり、青山周辺のギャラリーもよく巡るように。沢山の素敵な作品を見るうちに、お客さんの立場ではいられなくなり、いつの間にか私も作りたいという気持ちに変わっていきました。
そして、29歳の時に、知り合いの作家さんからロクロや窯など、陶芸に関する全ての道具を譲っていただいたことも。作品との出合いだけではなく、人との縁にも背中を押してもらった気がします。
器好きが高じて陶芸を始めたんですね。作品を作る工程の中で、好きな工程はありますか?
練ったり、丸めたり、材料を混ぜる作業が好きです。子どもの頃に泥団子を夢中で作っていた感覚に近いかもしれません。単純に面白いんです。
“余白を造形する”という理念の通り、伊藤さんの作品は光を受けて輝いたり、手になじむフォルムなど、実生活で使うことでさらに器の良さが生きる気がします。今回扱う作品へのこだわりは何ですか?
今回の白い器は、「ゆのみ」、小皿のような「おてしょ」、塩や保存食を入れる「蓋物」の3種類です。すべて特別な感情を伴うハレの日の器では無く、使う日を選ばずにどんなものでも許容し、日常生活に溶け込む事をコンセプトに作りました。
忙しい日々の中で器が担う役割を考えた時に、使い手が何をどのように盛り付けるかをためらったり、お気に入りの器が割れることへの不安をもってほしくなかったんです。
3人の子育てを経験したことも、特別な器では無く、ストレスを与えず穏やかな日常の傍らにある器が必要だと感じた理由のひとつですね。
続いて、 “余白”という言葉に込めた思いを聞かせてください。
大量生産されたステレオタイプな工業製品でも用が足りるのですが、そこには無い手仕事の温かみが、少しでも生活の豊かさに貢献できると信じています。使い手にとっては余白と感じることでも、身の回りの要素と関わることで、大きな意味が生まれるのではないでしょうか。
そんな要素のひとつとして器をデザインして、日常の豊かさへ寄与することを目指しています。
松本出身・在住の伊藤さんにとって、工芸制作の歴史をもつ松本という場所が作品作りに与えた影響はありますか?
育った環境に誇れる工芸品や民芸品があることを知ったのは、恥ずかしながら上京した後なんです。幼い頃から生活の一部として身近にあったので、特別なことだと思っていませんでした。大人になった今では、そんな文化が自然と私の中に染み付いて、糧になっていたんだなと感じています。
松本周辺のギャラリーは、陶芸に興味を持ち始めた頃からずっと通っていて、近所の松本民芸館に自転車で行くことも。今でも勉強させてもらっている感覚ですね。
作品を作るときのインプットはありますか?
花や木の実など季節の色や匂いを感じたり、海に潜ったり…。時間を忘れて自然の中に身を置くことが制作のアイデアにつながっています。
器を作る上で一番大事なことは何だと思いますか?
私自身に余裕があること、平坦な気持ちでいること、自身に素直であることです。
今後挑戦してみたいことはありますか?
既成概念に捉われずに素材を組み合わせて、実験と失敗を繰り返しながら制作していきたいです。
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