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お客さんと直接話しながらまず飲んでもらう 「047 釜炒りはるもえぎ」前鶴製茶 前鶴憲一さんインタビュー

2020年07月19日

by 煎茶堂東京編集部

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鹿児島県の伊集院。ここに釜炒り茶を3代にわたり作り続ける農家があります。

香ばしくてさっぱりといただける釜炒り茶は、手軽に飲めるお茶も必要じゃないかと考える「前鶴製茶」の前鶴さんの考えを聞くと納得する飲みやすさ。そんな前鶴さんの釜炒り茶を作り続ける想いについてお伺いしてきました。


話し手:前鶴製茶 前鶴賢士さん 聞き手:谷本幹人



―――この地域や、作っているお茶について教えて下さい。
ここは鹿児島県日置市の伊集院町というところで、最近は日置茶ということで売り出してます。茶の種類は、煎茶ではなくて釜炒り茶というものになりますね。私のじいちゃんが工場立ち上げの時に、釜炒りのほうが香ばしくてさっぱりして飲みやすいということで惚れてから、ずっと作ってます。

―――茶園はおじいさんの代に始められたんですね。
そうですね。じいちゃんが最初に始めて、まわりの農家の人たちにもお茶を植えさせたみたいです。リーダーシップのある、そんな人でしたね。

その頃は、今の工場が住宅だったんですよ。下が工場で2階が家っていう造りだったんですけど、消防隊みたいに工場にすぐ降りれるように鉄の棒があったんですよ。子どもの頃はそれで遊んでた記憶があります。じいちゃん、そんなの好きだったんだろうね。

―――前鶴さんの中で、継ぐのは自然なことだったんでしょうか?
私は必然的に後を継いだみたいな感覚です。まず、親父はしぶしぶ後を継いでいて。兄弟は多かったんだけど親父が男1人なんです。あと7人は女兄弟で。おやじはその頃東京で郵便局で働いてたみたいなんですが、後継者がいないから無理やり引っ張ってきたみたいです。

それを見ていたおばさんたちが、僕もそんななったらいけないと思ったのか、お茶屋を継ぐのが当たり前だとちっちゃい頃から洗脳されてました。それで当たり前かなと思ってたら人に「家を継ぐんだ、えらいな」って言われて。あれっ、俺騙されたのかなと。でも、結構好きなのでやってます(笑)。

―――釜炒りの特徴を教えていただけますか。
釜炒り茶は名前の通り茶葉を釜で炒って作ります。生葉摘んできて、いきなり炒ります。火が弱すぎてもいけないし、強すぎたら焦げてしまうので、最初の炒るところで勝負が決まりますね。いいお茶ほどトロッとした甘味が出ると思っているんですが、炒る技術はそこに影響します。

炒ったあとは煎茶の工程とほとんど一緒ですけど、最後にドラム式のやつでグルグル回しながら乾燥させるので、茶葉はくるっとした形になって、それも特徴ですね。

もともとは平釜っていって、そこに生葉を入れて下から薪で火を焚いて炒るっていう工程なんですけど、それを今、連続でする機械が出てきたのでそれでやってました。ただ、もう今は需要が少ないので、その機械作ったメーカーはもうないです。もう自分たちで直しながらどうにかこうにかやるしかないですね。

―――釜炒りは宮崎とか熊本とか佐賀とかが主流ですよね。
そうですね、工場を再編するときに私もそこにも勉強しに行きました。お互い忙しいお茶の時期に、工場見学に行って。そしたら、釜炒り茶のところはどこも同じラインはないんですよね。煎茶だったら、粗揉が2台あるよとか、ある程度形があるんですけど、釜炒りはどこもない。独自の本当全部ラインでやってますね。だからそれも面白いな、と思って。

―――その中で前鶴さんの釜炒りのこだわりはありますか。
そうですね、うーん。パッとは出てこないですけど、じいちゃん・親父ときて、引き継いてきたものはあると思います。全国品評会でも、農林水産大臣賞を受賞したりなんかもしてますし、それなりの成績は出してます。

―――自分の農園以外の茶葉も炒っていらっしゃると伺いました。
一般の方がちょこっと畑の周りにお茶畑があるのを摘んできて、それを製造加工にする仕事もしています。みんな手提げ袋持ってきて計って、そういうのを寄せ集めて、製造から仕上げまでして2日後ぐらいにお渡しすると。

じいちゃんの代からやってたみたいなんですけど、後継者として帰ってきた頃に「なんでこんなことすんの?」ってじいちゃんに聞きました。だってすごく手間がかかるんですよ。受付簿に誰が何kg持ってきたかの記録をつけて製造して、それを歩留まりで計算して袋に入れて。

そしたらじいちゃん「このお茶を飲み終わったら、美味しかったって言ってまた絶対買いに来るから。そのお客さんを逃さないためにやるんだ」と。昔は結構どこでもやってたみたいなんです。でも、うちに持ってきてくれる。ピークのときは、うちで栽培する生葉の量より多かったです。

釜炒り茶のようにカラッと楽しく場を盛り上げてくださる前鶴さん
―――庭先に茶園があるような場所ってことは、昔からお茶自体はあったんですね。
はい、昔からあったみたいです。それこそ昔は自分の家で釜で作ってたっていう。釜炒りっていう技法自体も庶民的で古くからありますし。自分の家でできるってやつですね。だから持ってこられた方も、昔は家でやってたよって言います。僕たちは、その味に近づいてますかね?って言いながら(笑)。

それこそ今となっては茶葉は自宅で炒るような日常のものではないけど、ゴールデンウィークの時期に子どもとか孫が帰ってきたときの年中行事、イベントみたいになってるみたいですね。そういうの大事だなと思いながらみなさんのお茶作ってます。

―――煎茶をやりたいなと思ったことはないですか。
ちっちゃい頃からずっと釜炒りが普通のお茶だと思ってたので考えたことがなかったな。でも煎茶も面白いですよね。鹿児島県の品評会って、実は釜炒り茶の部がないんですよ。

でも1度、産地賞かなんかの賞を取るために煎茶の茶葉を製造しようっていうことになって、農協の煎茶工場で製造したのを出したことがあります。それでその茶葉が県で3番になりましたね。もちろんそれなりの手を入れてやっていたからというのはありますが、天候とか色々なタイミングはあるので、たまたま周りに恵まれた結果なんですが。

―――その中で初めて釜炒り茶を飲んだ方も結構、多いんじゃないでしょうか。
そうですね。こういうの飲んだことないとか、どこで売ってんのって聞かれますね。あくまでも個人の感想なんですけど、上級なお茶は和菓子でも食べながらゆっくり嗜むのがいいと思うんです。でも、いいお茶は確かに美味しいんですけど、何杯も飲むのはどうかなって。

でも釜炒り茶は基本的に食事をしながらガバガバ飲んでいただけるお茶だから。もちろん全国の品評会も釜炒り茶の部がありますので、そこにも出したりしていて。そういうお茶は本当にトロっとして甘みがあって、上級煎茶に引けを取らないぐらいの美味しいやつもあります。

そんな中で一般向け用に安く、手軽に飲めるお茶も必要じゃないかと考えていて。そういう釜炒り茶を、たくさん飲んでくださいと思っています。

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このインタビューは、「観て飲む」お茶の定期便 "TOKYO TEA JOURNAL"に掲載されたものです。毎月お茶にまつわるお話と、2種類の茶葉をセットでお届け中。

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