
麻生要一郎「7月は、海で。」- TOKYO TEA JOURNAL 巻頭エッセイ
2023年07月14日

by 煎茶堂東京編集部
TOKYO TEA JORUNALの巻頭コラムを飾る、料理家・麻生要一郎さんのエッセイ。季節を感じながら、毎日のちょっとした幸せを見つけられるような麻生さんのエッセイをお楽しみください。月に一度更新予定。
7月は、海で。
僕が営んでいた宿は、小さな島の海の近くにあった。夏の一番混んでる時期でさえ、海は空いていて、都会から来る友人たちは、まるでプライベートビーチみたいだと喜んでいた。天気が良い日に見せる、どこまでも透き通るようなエメラルドグリーンの色、夕暮れどき黄昏色に染まる空と海は、涙が出てくるような美しさだった。台風の時に見せる波の荒々しさ、海は色々な表情を見せてくれた。
毎日忙しかった事もあって、海のそばで過ごした数年間のうち、海に入ったのは海水浴が好きなスタッフがいた年だけ、片手で数えるほどしかない。浮き輪に体を埋めて、本を読んだりしてとても楽しかったけれど、僕は未だに海水浴の楽しみ方がよく分からない。海は、遠くで眺めるくらいが、ちょうど良い。忙しい中、水面がキラキラ光る様子を眺めると、それだけで、疲れが吹き飛んで幸せな気持ちになれた。
愛猫チョビは、その宿でよちよち歩きの小さな頃から、暮らし始めた。ある日、庭にポツンといて、何日か様子を見ても母猫の気配は全くなかった。看板猫の誕生である。宿から、近くの浜辺までは5分くらい。チョビは海に行ったことがあるのだろうか。あるとき、屋上から一緒に、きれいな夕焼けの海辺を眺めた事があった。たまに、あの海を恋しく思ったりするのかな。あなたの海の思い出をお寄せ下さいね。
麻生要一郎
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あそう・よういちろう|1977年1月18日生まれ。茨城県水戸市出身。料理家・随筆家。 家庭的な味わいのお弁当が評判となり口コミで広がる。雑誌への料理・レシピ提供、食や暮らしについての随筆を行う。初の単行本『僕の献立 本日もお疲れ様でした』(光文社刊)を刊行。2022年1月には第2弾『僕のいたわり飯』(光文社刊)も。 |
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Illustration:fancomi
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