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山本益博さんに聞く、鮨を「美味しく食べる」大人の心得

2022年06月16日

by 煎茶堂東京編集部

ハレの日に食べたい和食の横綱「お鮨」。お鮨をひとつ食べたら、生姜の甘酢漬けでその味を切り、熱いお茶で口をさっぱりと洗い流し、次の鮨を待つ。

ちらしずしを囲みながら、香り高いお茶とともに新緑の気持ちいい季節の訪れを喜ぶ。でもお寿司屋さんって何だか緊張してしまいませんか?

今回お話を伺ったのは、日本を代表する料理評論家であり、鮨の名店である「すきやばし次郎」の名を世界に広めたことでも知られる山本益博さん。

浅草生まれで、10代の頃からお鮨の食べ方を「教えてもらった」という山本さんに、お鮨をもっと美味しく食べる方法について伺いました。

教えてくれたのは…山本益博さん

1948年、東京生まれ。料理評論家。料理とレストラン文化の研究を重ね、2001年、フランス政府より農事功労勲章を授与される。️洗練を極めた職人仕事を紹介した『至福のすし「すきやばし次郎」の職人芸術』をはじめ、著書多数。国内外の食文化や、レストラン、食の楽しみ方を伝えるYouTubeチャンネル「MASUHIROのうまいのなんの!」を開設。
https://youtu.be/TFWPQcYLIqU

お鮨に大切なのは魚よりも「海苔」と「お茶」

お鮨に欠かせない、大切なものは何だと思いますか? きっと多くの人が「魚」と答えるのではないでしょうか。でも僕は、お鮨に大事なものは、実は、「海苔」と「お茶」、そして「生姜」だと思います。

お鮨は「ご飯」を美味しく食べるための料理なのだから、脇役だと思われがちなものほど、きちんと美味しいのが大事です。今はお鮨をお酒のつまみみたいに食べる人も多いけれど、主役はご飯だということを、まずはお伝えしたいです。

ところが、美味しいお茶を出してくれるお鮨屋さんは、今日ではとても少ないと思います。それはなぜかというと、お客のせいでもあるんですね。お酒を飲んでお鮨をつまんで、そして最後に出てきたお茶が美味しくなくても、今は気にする人が少ない。

だから“お鮨はお茶でつまむのがいちばん美味しい”ということは、誰かが言っていくべきだなと思います。特に江戸前鮨は、さっと食べて、さっと帰るのが粋。お酒を飲んでだらだらする場所ではないんです。

食べ方の師匠を見つけることが大事

今はネットで情報を簡単に得られるけれど、粋だとか、立ち居振る舞いとか、説明しづらいものはやはり先人に教えてもらわないと分からない。職人になろうと思ったら弟子入りするように、食べることにも師匠がいた方が、本当にものを美味しく食べられるようになるんです。

私にも、「すきやばし次郎」の小野二郎さんや、フレンチの巨匠であるジョエル・ロブションさんをはじめとした食の師匠がいますが、10代で出会った浅草の「弁天山美家古寿司」の親方の存在は大きかったですね。この師匠に出会うことができたのは、ただただ「美味しそうに食べるから」でした。

ある時、この親方に蕎麦屋に連れて行ってもらいました。徳利に入った蕎麦つゆをお猪口に全部注ごうとしたら“徳利とお猪口で来てる理由を考えろ。少しずつ注ぎ足し注ぎ足し使うんだよ”とか、“ざる蕎麦は真ん中から持ち上げるとちゃーんときれいに取れるように盛りつけてあるんだよ”とか言う。

お腹がくちく(満腹に)なればいいじゃないか、と思っていたけれど、親方が教えてくれたのは、作ってくれた人の気持ちを考えて食べろということだったんです。

どうやって食べたらいちばん美味しいのかを考えなさい、そうすれば盛りつけや供し方、すべてに意味があることが分かってくるからと。それ以来、「美味しいものを食べたい」ではなく「ものを美味しく食べたい」と思うようになりました。

見習うべきは「あの人」の食べ方

スポーツだって、コーチがいるのといないのとでは全然違うでしょう。だから皆さん、お鮨屋さんをもっと楽しみたいと思うならば自分の師匠を探せばいいんですよ。気に入ったお鮨屋さんに通って、恥ずかしがらずに親方にどんどん聞けばいい。

お鮨が好きと言いつつ、スタンプラリーみたいに評判のお店をどんどん回っていく人もいるでしょう。でも、それでは本当に美味しいものには出合えません。ひとつのお店、人に惚れ込むということが、やはり大事だと思います。

そうして師匠の話を聞いたり、自分でもカウンターの中の動きをよく見ようとしたりすることで、きっといろいろなことに気づけるようになる。そうなるとお鮨はどんどん面白くなりますよ。

時には「あれ、あの常連ぶって偉そうにしてる人、穴子のあまり脂ののってない部位を出されてるな」なんて気づいたりして(笑)。客がお鮨屋さんの努力や工夫といったものを見抜けないと、職人技も衰えていってしまうんです。

だからお鮨屋さんで「美味しく食べたい」と思ったら、作る人に敬意を払いながらもよく見て、そして一生懸命食べようとすることです。スピードも大切ですよ。お鮨は、魚と酢飯を合わせて、出されたときが100点満点。どんなに美しくても眺めたりせず、すぐに食べなきゃ。

今の私の食べ方のお手本は、ドラマ『孤独のグルメ』の松重豊さんなんです。仕事が終わって、町の定食屋みたいなところに入りますよね。そこでだらっとしたり、ネクタイを緩めたりせず、姿勢もビシッとしたまま。見ていて“ああ、この人は本当に食べるのが好きなんだな”と伝わってくる。

そして感動的なのが最後のシーン。残っている水をきれいに飲みほして、「ごちそうさまでした」と言うところです。若い人は、皆あれを見習った方がいいと思うし、私もああいう食べ姿ができるようになりたい。もしかしたら、私が今いちばん尊敬している人かもしれません。

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