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作り手のことば「作品づくりは、自分の中にある『寡黙な世界観の現前化』」陶芸家・森岡希世子さんインタビュー
2024年08月02日
by 煎茶堂東京編集部
学生時代のデンマーク留学をきっかけに、器づくりの世界に足を踏み入れた陶芸家の森岡希世子(もりおか・きよこ)さん。九谷焼成形部門の伝統工芸士であり、神戸芸術工科大学の教授も務めていらっしゃいます。
今回、煎茶堂東京で森岡さんの作品をお取り扱いするにあたり、森岡さんのお人柄、作品や器づくりに対する想いなどを伺いました。
森岡さん、今回はよろしくお願いします。まずは、簡単なプロフィールを教えていただけますか。
よろしくお願いします。私は石川県金沢市の出身で、20歳のときにデンマーク国民美術学校に留学したことをきっかけに、陶芸の道を志すことにしました。現在は、九谷焼成形部門の伝統工芸士として、金沢にある工房で噐づくりをするとともに、神戸芸術工科大学の教授も務めています。
森岡さんは金沢出身でいらっしゃいますが、金沢の風土や文化が、ご自身の作品づくりにどのような影響を与えていると感じますか。
金沢といえばものづくりの街。美術館や工芸との距離が近く、私が小さいころからものづくりが身近にありました。それが、作品づくりを志す背景の1つになったのかもしれません。さらに工芸仲間と交流する機会も多いので、刺激を受けることができるのも金沢の魅力ですね。
森岡さんは、器づくりにおいて一番大事なことは何だと思いますか。
私が制作を行う目的であり、大事だと思うことは、自分の中にある「寡黙な世界観の現前化」です。自分の内面に灯る「白くぼんやりした光」のようなものを、ほかの人の心に伝え届ける方法として「器」を選びました。
器は、手に取った人が実際に使用するので、視覚だけでなく触覚でも世界観を感じ取ることができます。
私は、多くの情報であふれる慌ただしい現代において、置き去りにされがちな「生きていることをそのまま味わう時間」が大切だと強く感じています。器での表現を通じて、個々人の生活を支える、この「生の時間」に共生・共存していきたいというのが願いです。
ただし、声高に自分自身の世界観を開示するだけが目的ではありません。手にした人の意図や心、その場の色を反映する白磁の器を通して「その人の光」を灯すことこそが到達点であり、最も大事なことだと考えています。
器づくりを行うきっかけとなった、デンマーク留学についてお話を伺います。デンマークで学んだことや、今の制作活動につながっている経験を教えてください。
先ほどお話しした、自分の中にある「寡黙な世界観」を意識するきっかけになったのがデンマーク留学でした。
「今、この瞬間、目の前に広がっている風景にある風、木々、鳥は、長い歴史の中で必然的なものとして、あるいは偶然も含めながら、そのまま表出しているのではないか。人も、ただその連鎖の中で存在しているだけなのではないか」
「だとしたら、目に見えているものや感じているもの、それを感じている自分自身、そこにある自分の身体…すべてをそのまま受け入れて、あるがままに生きればいい」
そんな風に考えるようになって。自分の中にあるこうした意識が、時間をかけて「寡黙な世界観」へと昇華されていきました。デンマーク留学での体験と、そこで感じたことが、まさに現在の器づくりの原点になっているんです。
作品を作る工程の中で、森岡さんが好きな工程とその理由を教えてください。
ろくろ成形ですね。土とろくろは、作品づくりにおいて手足と変わらないほどの道具です。
ろくろ成形は「内側の形が外側を決める」のが基本といわれています。作品の形は、外側のラインではなく内側のラインから導かれているということです。
私が制作している「光の呼吸」シリーズの成形の根本にあるのは、物の形は内側と外柄の緊張した関係によって成り立つという考え方です。形の締まりを突き詰め、エッジから得られる陰影や形そのものから強さや鋭さを感じられるよう、追究しています。
作品を作るにあたってのインプットは何かありますか。
日々の生活や自然観察の中で出会う、小さな感動がインプットです。
最後に、森岡さんが今後挑戦してみたいことを教えてください。
グレーのグラデーション作品を充実させていきたいです。