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日本一の 「もち食文化」のまち、一関。もち本膳が世代をつなぐ
2022年01月08日
by 煎茶堂東京編集部
「お餅、何個食べる?」「海苔は巻く?」年始、食卓ではそんな会話が交わされるのでは。温かいお茶と、お餅の組み合わせでいただけば「これぞ日本のお正月」という気分を高めてくれます。
でも、なぜお餅はお正月にだけに食べるものなのでしょう?お正月も、お正月以外にも、いつでもお餅が食べたくなるような情報を、この記事ではお届けいたします。
岩手県の一関・平泉地方では、年越しやお正月だけでなく、季節の行事や入学・卒業など、あらゆるハレの日におもちが食べられているそうです。
全国でも珍しい食文化の継承を目指す「世嬉の一酒造」の相談役・佐藤晄僖(こうき)さんに、「もち食」についてのお話を伺いました。
教えてくれたのは…世嬉の一酒造・佐藤晄僖(こうき)さん
100年以上にわたり、一関の地で酒造りを行ってきた「世嬉の一酒造」の相談役。世嬉の一酒造では、お酒やもち食が楽しめるレストランのほか、博物館やミニ文学館もあり、地域の魅力を伝えるべく営業を続けています。ちなみに、佐藤さんの好きなおもちの食べ方はすりおろしたくるみだれでいただく「くるみもち」だそう。
つきたてもちが一関流
この地方の「もち食文化」が興ったきっかけは、江戸時代だと言われています。地域一帯を治めていた伊達藩が、毎月1日と15日にはもちをついて神様に捧げるようにと命じたのだそうです。伊達政宗という人は多くのアイデアで運命を切り開いたと言い伝えられますから、藩外への輸出品であったもちのPRも兼ねていたのかもしれません。
比較的庶民の食生活も豊かだったため、もち食の文化は藩内に広がっていったようですね。この地方に伝わる「もち暦」によると、農作業の始まる日や、お彼岸、稲刈りの日など、年間60日以上が「おもちを食べる日」として記されています。
おもちを食べる機会が多い土地だからこそ、あんこやきなこ、しょうゆだけではなく、ねぎもち、ずんだもち、じゅうね(エゴマ)もち……とさまざまな食べ方が増えていったのでしょう。伝統的な食べ方は15〜6種類ですが、洋風のレシピなども増えて一関市のホームページには200以上のレシピが掲載されています。
ちなみに、以前この地域の2000世帯を対象に調査をしたところ、60%がもちつき機を持っているという結果になりました。大阪の方に話したら「うちらにとってのたこ焼き器やね」と言っておられました。
このあたりでは「いちばんおいしいのは“うすばたもち”だ」とよく言います。臼端、つまり臼でついたすぐそばから何もつけないで食べるのがいちばんおいしいんだと。臼と杵でおもちをつく機会が減った今も、つきたてのおもちを食べたいという気持ちは皆さん持っているのでしょうね。
「もち本膳」が世代をつなぐ
今も冠婚葬祭では「もち本膳」という武家式のお膳をいただきます。白米や煮物といったものの代わりに、汁もち(雑煮)、料理もち、大根おろし、たくあんなどがお膳に並んでいるもので、「おとりもち」という進行役に従っていただくのが、本式のもち本膳になります。
なかなかこういうしきたりも体験する機会が減っているので、地域の「もち食推進会議」では、毎年小学校に出前授業を行っています。
一度、授業のあとで子供たちから「自分たちもおとりもちをやってみたい」という声が出て、お年寄りと子供たちの交流会の時にやってみたそうです。「それでは、みなさん、お箸をお取りなすってください」なんて言って。
お年寄りの中には、よくもち本膳のことを知っている方もいらっしゃるから、孫世代と話が弾んだと聞いて、とてもうれしかったです。
世嬉の一では、レストランも営業していますが、ここで「もち本膳」を体験することができます「なぜ酒屋がもちを出すのか」というと、お酒もおもちも、稲作文化の代表のようなものです。
古代では神様に捧げる食物として特に大切なもので、そこには「信仰」や「希望」が宿っていたのではないかと思います。だからこそ、この地の伝統的な「もち食」を名物として残していきたいと思いました。でも、最初は「もち膳なんつうのは名物になんねえのっしゃ」< /b>って言われましたね(笑)。
自分たちにとってはあまりに日常的で、変わったものだと誰も思っていなかったんです。でも実際に出してみると、皆さん喜んで召し上がってくださるんです。おもちは、食事にも、おやつにも、おつまみにもなりますし、特に一関は甘いのも、しょっぱいのも両方ございますから。
「ふるさとを語るもの」を伝えたい
こういった地域に残る伝統食を守り伝えていくというのは、私たちの世代の責任ではないかと思うんです。例えば若い方が県外に出て「故郷はどんなところ?」と聞かれて「何もない、つまらないところだよ」と答えるのは、やはり寂しいですよね。
でも私たちがもち食のすばらしさを理解して、伝えていけば「もち食っていう文化があってね、こういう習慣なんだよ」と話していけると思うんです。こういう「ふるさとを語るもの」をひとつでも、ふたつでも残していきたい。
またお米の消費量も減っている中で、稲作文化を後世に受け継いでいきたい、そのために消費を増やしていきたいという思いもあります。心配のしすぎと思われるかもしれませんが、もしかしたらこのままだと、お米作りの技術が伝統工芸の技のように滅びていってしまうかもしれない。そうすると日本人のアイデンティティはどこへ行ってしまうのだろうと少し不安になります。
だからこそ、一関に限らず、いろいろな地域のおもちを食べてみて、おもちのおいしさをぜひ実感してほしいですね。少量でも腹持ちがいいから、朝ごはんにおもちを焼いて食べるのもいいそうですよ。ごはんに合うものは何でもおもちに合いますから、お正月に限らず、ぜひいろいろな時期に召し上がってみてください。
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