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それぞれに違う猫の個性をとらえていきたい 猫写真家・沖昌之さんインタビュー

2021年12月08日

by 煎茶堂東京編集部

気まぐれで、人となれ合わないイメージがある猫。しかし日本では古くから「幸運を招く動物」として、大事にされてきた歴史があります。猫がくつろいでいる姿を見てほっとするのは、もしかしたらそんな記憶が人々の心の中に残っているからなのかも。

猫を飼っている人は、猫を眺めながら、飼っていない人は猫を膝にのせているところを想像しながら、ぜひ読み進めてください。

今回は、写真集『必死すぎるネコ』『ぶさにゃん』など、可愛らしくも思わず二度見してしまう決定的瞬間をとらえる、猫写真家の沖昌之さんに、運命の「先輩」との出会いを伺いました。


教えてくれたのは…沖昌之(おき・まさゆき)さん

©MASAYOSHI YAMAMOTO

猫写真家。1978年神戸生まれ。家電の営業マンからアパレルのカメラマン兼販売員へ。その後2015年に独立し、『必死すぎるネコ』が5万部を超えるベストセラーに。『ぶさにゃん』『残念すぎるネコ』『おどるネコうたうネコ』『いない いない にゃあ』など著書多数。「180㎝で40歳の見知らぬおっさんが路地裏で写真撮ってたらご近所の方も怖いのでは」ということで、慣れている場所での撮影が多いのだとか。
Twitter @okirakuoki / Instagram @okirakuoki
公式ブログ

この猫はどういう生き方をしているんだろう

©︎沖 昌之
ぶさにゃん先輩。がハチワレの子を先導するこの姿を見て、「ぶさにゃん先輩。」に名前が決定したのだそう。

ある年の大晦日に「ぶさにゃん先輩。」と出会ったことが、今へとつながるきっかけです。先輩はエキゾチックショートのような、少しつぶれた顔のふくよかな子。道端に堂々と寝ていたのを見て、それまで持っていた外猫のイメージが見事に覆されました。

「この子はどういう生活をしているんだろう?」と思って、翌日から撮りに行くようになったんです。先輩に出会うまで、どちらかというとロシアンブルーとかアビシニアンとか、きれいな猫が好きでしたが、「あれ、これはかわいいぞ……」と。完全に“かわいい”の幅が広がりました。

僕はそれまで猫と深く付き合ったことがなかったので、猫は媚びなくて、自由な生き物だと勝手にイメージを抱いていました。

でも先輩を朝から追いかけてみると、ゴハンをくれる人にめちゃくちゃ媚びてるんですよ。カサカサって袋の音が聞こえたら先輩なりに全力で走っていってゴロンとお腹を見せたり、爪とぎしたり。結局朝ごはんを3回、それぞれ違う人にもらっていましたね。

「生きていく上ではこれが正解なのか……!」と衝撃を受けました。ちなみに真似して会社で媚びたら逆に怒られたので、自分に合った処世術が必要なのだと気づかされました。やはり猫の方が賢い。

怒られないために「猫写真家」に

©︎沖 昌之
相似形で休憩する猫たち。やはり先輩の姿を真似して成長していくのでしょうか。

とはいえ、先輩を撮ろうとしても、ほぼ一日中寝て毛づくろいをしているだけ。公園にはほかの猫もいるからそっちも撮りたいなと思って、色々な猫を撮るようになったんです。

ちょうどその頃、Instagramをやってほしいと会社から言われて最初は真面目に商品の写真を上げていたんですが、「いいね」はつかないし、社長も見ていなさそう。

もう好きにやっちゃえ!と思って猫の写真を載せ始めたら、今度は、海外からも反応が来るようになりました。「“Awesome!”って何だ? ……めっちゃ褒められてる!」って驚きましたね。

世界中の猫好きさんを喜ばせられるなんて、何ていい趣味なんだと思って、猫インスタに勝手に変えてしまいました。

そして36歳になったころ、衝動的に会社を辞めて、しかたなく「猫写真家」を名乗るようになったんです。SNSでつながってる人に、無職になったって言ったら怒られそうだなと思って……。

心が弾んだ瞬間の変化をとらえたい

©︎沖 昌之
『必死すぎるネコ 〜前後不覚篇〜』の表紙を飾った一枚。なぜかビニール紐が目にかかった状態で静止。

カメラを通して猫を見てみると、すごく人懐こい子もいるし、全く人には興味がない子もいるし、あいさつだけはしとこうか、みたいな子もいて、本当に一匹一匹違うんです。

猫同士にもコミュニティがあったりもするし、上下関係もあるし好き嫌いもある。そういうところを見ていくと、当たり前だけど猫にはみんな心があって、アイデンティティというか、その子らしさがあります。その個性があらわれる瞬間を撮ってみたいなと思えてきたんです。

©︎沖 昌之
これこそ「必死すぎるネコ」の躍動感! あと一歩で届かないところにそこはかとない哀愁が。

心が弾んだり、揺れた瞬間の態度や表情、しっぽや毛並み、ひげの広がり、そういうところをよーく見ていれば、その子がもっとわかるし、その内面のかわいさをもっと表現できるんじゃないだろうか。そう思って、猫を撮り続けています。

僕が撮っている場所は、地域の方が愛情をもって接しているので、人に対しての警戒心が薄いから写真が撮れているという部分もあると思います。「今ある命が幸せであってほしい」という人の思いで、猫を取り囲む温かい環境が作られていることも、撮影を通して気づけたことかもしれませんね。



この記事は「TOKYO TEA JOURNAL」VOL.31に収録されています。

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