【2020年版】お茶の生産量都道府県別TOP10 王者静岡と1位の座を狙う鹿児島
2021年08月02日
お茶は日本文化を代表する飲み物であり、古くから栽培されてきました。お茶は温暖な気候を好み、九州〜関東あたりまでの各地で栽培されています。そのため、地域ごとの風土や気候に合わせた異なる特徴が見られるのも日本茶の魅力です。
今回は最新の農林水産省「作物統計調査」より、お茶の生産量が多い都道府県TOP10を紹介。2020年にみる生産量の変化や、ランクインした県のお茶の特徴も合わせて解説していきます。
天候とコロナの影響で全国的に厳しかった2020年のお茶
農家の高齢化、後継者不足、「リーフ茶」と呼ばれる茶葉の価格下落など、お茶の生産をめぐる環境は年々厳しさを増していると言われています。
とりわけ2020年は、荒茶(あらちゃ)の全国生産量が前年の81,700tから69,800tへと、実に15%以上も減少。近年稀にみる厳しい一年でした。原因としては暖冬や収穫期の強風・霜害の他、新型コロナ感染拡大に伴う飲食店の休業・イベント中止などの影響が大きかったとみられます。
ちなみに、荒茶とは生葉からの一次加工品のこと。荒茶をさらに加工したものが私たちの飲んでいる仕上げ茶です。この記事の最後で、荒茶生産量の都道府県別TOP10を表にまとめていますので、合わせてご覧ください。
生産量第1位「静岡県」:絶対的王者に変化の兆し
2020年のお茶生産における全国的な傾向を見てきたところで、いよいよ生産量が多い都道府県TOP10を紹介していきましょう。
第1位は言わずと知れたお茶大国「静岡県」。作物統計調査の結果が残っている昭和30年代から不動の1位であり、正真正銘日本一の茶どころです。しかし、2020年荒茶生産量は25,200tと前年比で約15%減。一時はいよいよ王座陥落かと言われましたが、何とか首位の座を守り抜きました。
そんな静岡県の中でも一大産地として知られるのが、県中西部に広がる牧之原台地。明治維新で駿河へと移封になった徳川家が主導して開墾した土地で、なだらかな台地上に大規模な茶園が広がっています。牧之原は温暖なため、県内他地域より早く4月中旬ごろに新茶が出回るのが特徴です。
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また、静岡県は地域ごとに特色あるブランド茶が多くあるのも魅力。お茶作りに適するとされる山間部で作られる川根茶・天竜茶・本山茶(ほんやまちゃ)などは、力強くも優しい旨味や甘味を楽しめる高品質なお茶として知られています。
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生産量第2位「鹿児島県」:産出額では静岡を上回る大産地
静岡県に次いで、荒茶生産量第2位となったのは「鹿児島県」。2020年の生産量は23,900tで、1位の静岡県とわずか1,300t差となっています。
鹿児島県は生産量こそ2位ですが、産出額では2019年に静岡県を上回り日本一となりました。静岡県より生産量の少ない鹿児島県の産出額が高い理由は、「儲かる茶業経営」をスローガンに生産の効率化を進めているから。実際、10aあたり生葉収量は静岡県の約1.8倍に達しています。
・参考:静岡県「茶業の現状(令和3年3月)」
戦後から本格的な茶栽培がスタートした鹿児島県は、お茶産地としては後発の部類。恵まれた温暖な気候と広大な平地を利用して、農地の大規模化・機械化を積極的に取り入れることで一大産地へと発展してきたというわけなのです。
静岡県や京都府が全国から集まった荒茶を仕上げ茶に加工・販売する「集散地」であるのに対し、鹿児島県は長らく茶葉生産に特化した茶産地でした。集散地の2県に比べて、産地としての知名度が高くないのはそのためです。
ただ、近年では鹿児島県産であることを全面に出した高品質なお茶も増加。知覧・頴娃(えい)周辺で生産される知覧茶、霧島地方で作られる霧島茶など、全国的に知られるお茶も増えてきています。
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全生産量の7割以上を占める定番品種「やぶきた」の生産割合が低いのも、鹿児島県の特徴。気候が温暖なため、ゆたかみどりやさえみどりといった早生(わせ)品種の栽培も盛んです。希少品種も栽培されており、バラエティ豊かな日本茶を楽しめるのは鹿児島茶の大きな魅力と言えるでしょう。
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生産量第3位「三重県」:かぶせ茶で有名な産地
続いて、荒茶生産量第3位は「三重県」。2020年の生産量は5,080tでした。こうして見ると、1位静岡県・2位鹿児島県の生産量は圧倒的であることがわかります。
三重県が茶産地と聞いてもピンとこない方が多いかもしれませんが、三重県で生産される「伊勢茶」は全国的にも有名なブランド茶。温暖で雨の多い気候を生かして、県内各地で高品質なお茶が生産されています。
三重県のお茶生産の特徴は、県の南北で作られるお茶が異なること。四日市市や鈴鹿市周辺の「北勢地方」は、日本有数のかぶせ茶の産地として知られます。一方、県南部を流れる宮川流域を中心とした「南勢地方」は深蒸し茶の産地です。
北勢地方で生産されるかぶせ茶とは、摘採の1週間ほど前から、布などで茶葉を覆い日光を遮る被覆栽培を行って生産されるお茶のこと。日光を遮ることで渋味が抑えられ、深い甘味と旨味が感じられるお茶に仕上がります。
全国茶生産団体連合会のデータによると、全国のかぶせ茶生産量のうち約2/3は三重県で生産されているというから驚きです。
かぶせ茶については、こちらの記事をどうぞ。
生産量第4位「宮崎県」日本一の釜炒り茶産地を有する茶どころ
2020年の荒茶生産量第4位は、年間生産量3,040tの「宮崎県」。宮崎県の特徴といえば、一般的な煎茶の他に釜炒り茶の生産が盛んなことです。
日本の煎茶は通常、生の茶葉を高温で蒸して酸化を止める「蒸し製」によって作られます。これに対して、生の茶葉を釜で炒ることにより酸化を止めて作られるのが釜炒り茶です。
釜炒り茶についてはこちらの記事をご覧ください。
全国茶生産団体連合会のデータによると、お茶の生産量全体に占める釜炒り茶の割合はわずか0.02%程度ですが、そのうち4割弱は宮崎県で生産されているのです。釜炒り茶の主産地は県北西部の山間部、高千穂町・五ヶ瀬町周辺。
都城市を中心とした霧島盆地と呼ばれる一帯では、煎茶の栽培が盛ん。隣の鹿児島県と同じく広大な平坦地を利用した、大規模・機械化された効率的なお茶作りを行っています。
生産量第5位「京都府」:日本茶の原点とも言える宇治茶
お茶の産地と言えば、静岡県とここを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。荒茶生産量第5位は年間2,360tを生産する「京都府」です。京都府は、日本茶の原点とも言うべき歴史あるお茶「宇治茶」の産地として広く知られています。
鎌倉時代初期、修行先の宋よりお茶を持ち帰った栄西(えいさい・ようさい)より茶の種をもらった明恵上人(みょうえしょうにん)が、京都栂尾高山寺(とがのおこうざんじ)に茶園を開きました。この茶園が宇治茶の起源とされており、現代まで連なるお茶文化の原点となったのです。
日本茶の歴史について詳しく知りたい方には、こちらの記事がおすすめ。
そんな京都府の生産地としての特徴といえば、高級茶である玉露や碾茶(抹茶の原料)の生産が盛んであること。
先の全国茶生産団体連合会のデータでは、全国でわずか222tしか生産されない玉露の内、約6割にあたる128tが京都産です。また、碾茶は全国生産3,464tの内、約1/4にあたる840tが京都府で生産されています。
玉露と碾茶は、かぶせ茶と同じ被覆栽培で生産されるお茶。京都では、茶園上に設けた棚の上から寒冷紗(かんれいしゃ)と呼ばれる布で覆いをかける「覆下(おおいした)栽培」が見られます。かつて宇治茶にしか認められていなかったこの技術は、宇治茶の高い品質を支えていると言えるでしょう。
玉露や碾茶(抹茶)については、こちらの記事で詳しく解説しています。
生産量第6位〜第10位を一挙紹介 有名産地も登場
ここまで生産量上位5県を見てきましたが、残りの第6位〜第10位も一挙に紹介していきましょう。
第6位:福岡県
第6位は「福岡県」です。県南部の八女地方で作られる八女茶は全国的な知名度を誇るお茶。特に八女市星野村周辺で作られる「八女伝統本玉露」は、高品質な玉露として高い評価を受けています。
こだわりの八女茶を味わってみたいなら、こちらの茶葉がおすすめです。
第7位:奈良県
茶産地としてのイメージはあまりないかもしれませんが、奈良県もお茶の主要産地の一つ。冷涼な山間地が多く、良質なお茶を生産するのに適しているとされます。奈良県の在来種を元に品種改良されたやまとみどりは、地域ブランド「大和茶」の代名詞的品種です。
奈良の自然が生み出す力強い香り・味を堪能したい方は、こちらの茶葉をどうぞ。
第8位:佐賀県
お茶を日本へ持ち帰った栄西は、福岡・佐賀県境の脊振山(せふりさん)で茶を栽培したと言われ、周辺は日本における茶栽培の発祥地とされます。そんな佐賀県を代表するブランドが「うれしの茶(嬉野茶)」です。うれしの茶は、蒸し製玉緑茶(ぐり茶)の代表的な銘柄として知られています。
こちらの記事で、玉緑茶について詳しく解説しています。
第9位:熊本県
第9位の熊本県で作られるお茶は、その名も「くまもと茶」と呼ばれます。煎茶とぐり茶を中心に生産している他、うれしの茶と並び称される伝統的な釜炒り茶「青柳茶」の主産地です。
熊本の大地の力を感じさせる、個性派の茶葉はこちら。
第10位:埼玉県
東日本では静岡県に次ぐ産地「埼玉県」が第10位です。県南西部の入間市・狭山市・所沢市周辺で生産される「狭山茶」は、静岡茶・宇治茶と並ぶ日本三大銘茶として全国的な知名度を誇ります。
狭山茶の歴史は古く、鎌倉時代にはすでに生産されていたと言われるほど。豊かな味には定評があり、仕上げ段階で行う「狭山火入れ」が特徴的です。
萎凋による華やかな香りをたたえた狭山茶はこちら。
最新のランキングから考える日本茶の未来
2020年は、茶の生産における絶対王者として君臨してきた静岡県が、初めて首位を明け渡すかもしれないと話題になった年でした。その背景には天候だけでなく、新型コロナ感染拡大という社会情勢も大きく関係していたと考えられます。
奇しくもこのことは、お茶が単なる飲み物ではなく、日本人の生活に深く根ざしたものであるということをあらためて証明したのではないでしょうか。お茶の生産量ランキングの変化は、今後の社会情勢や日本茶の未来を考える材料になるのかもしれませんね。
2020年 都道府県別 荒茶生産量ランキング
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