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日本の磁器のルーツ「有田」で「茶と焼き物」の関係を見つめ直す

2020年02月14日

by 煎茶堂東京編集部

2018年9月18日(火)、煎茶堂東京・東京茶寮の新たな製品「着替える有田焼」が発売となりました。シンプルで美しい、煎茶用の磁器のうつわです。日本茶専門店として、お茶にまつわる製品を現代にアップデートしてゆく中で生まれた今回の製品が、発売されるまでの過程と、そこに込めた想いを綴っておきたいと思います。(訪問:青栁、谷本/文:谷本)

「有田」への訪問

それがどこから来て、どのように生み出されるのか。シングルオリジンの煎茶を扱う当店としては、お茶以外でもその起源(ルーツ)を知るということが重要に思えてしまいます。新製品の「うつわ」を企画するにあたり、佐賀県「有田」へ訪れました。有田は、1616年に日本で最初の磁器製造を開始した土地です。当時天下人であった秀吉が命じた朝鮮出兵により、朝鮮の本場の製陶技術が日本に伝わるのですが、その秀吉は茶とも縁の深い人物。千利休を茶頭、政治顧問として茶の湯の歴史を彩りました。そんな「茶と焼き物」の関連性に思いを馳せながら、有田焼の起源となる土地に向かいます。

訪れたのは泉山磁石場(いずみやまじせきば)。

朝鮮出兵のときに朝鮮から連れて来られた陶工「李参平」が、ここに良質な「陶石」を発見し、日本で初めてとなる磁器焼成を成功させました。ご覧いただくとおわかりになるように、見事に「削られて」います。その景色は圧巻ではありますが、これだけの陶石を用いて過去に焼成された器が存在しているということに、驚きと不安に近い感情を感じました。

原料が枯渇する。有限の資源という当然の気付き

デザイナーは量産する製品に関わることが多いですが、「不要なもの(ごみとなるもの)」を世の中に生み出してはならないということを常に意識することになります。泉山磁石場のひと山が削り出された光景は、陶石がすべて採掘されつくすということを現実感を持って伝えていて、有限の資源であるということを強く意識するきっかけを与えてくれました。現在は、良質な陶石の採掘が難しくなったためほとんど採掘が行われておらず、量産向けの製品では熊本県天草の陶石を使用しているそうです。焼き物は一度焼成すると自然に土に還るものではなく、古代の器の出土がニュースになる通り、半永久的に使用することができるもの。焼き物でなにをつくるかは、「なにを未来に残すのか」と問われているかのようです。

「焼き物」をつくるということ

次に、実際に磁器製造の現場を見学しました。有田では分業体制を構築していて、多くの職人による手仕事が関わり、1つの器を完成させてゆきます。各パートに蓄積した技術を垣間見ることができます。手を動かし、形を作るということが目の前で粛々と行われていく様子は感動的でさえありました。

ここからさらなる技術や創意工夫した技法が生まれることがあるのだそうで、今回その一つを「着替える有田焼」でも使用することにしました。それが焼成後に釉薬の表面にサンドブラスト加工を施す技法です。それによってしっとりと吸い付くようなマットな仕上げを実現することができました。後日試作サンプルをみたときは、思わず声を上げてしまうクオリティで、大変な衝撃を受けたことを思い出します。

なにをつくるか

限りある良質な陶石と、受け継がれてきた職人の技術を用いてなにをつくるべきでしょうか。その答えはずっと探し続けるものだと思います。不要であればつくらない方が良いでしょう。私達は、恒久的に使用することができる煎茶用のうつわをつくることに挑みたいと考えました。消費されるデザインとしての「和風テイスト」が施された湯のみなどが数多く出回っていますが、それを私たちがあえて新たにつくる必要はありません。煎茶に適したうつわで、長く愛される普遍的な美を宿すものができないか。それでいて、新しさや新鮮さが加えられ、若い人が価値を見出すような現代の価値観を取り入れられないか。それらは一見すると矛盾するものですが、今回のチャレンジするポイントでした。

焼き物に異素材を合わせる

半永久的に残る焼き物からは、一切の装飾を削ぎ落とし、全体を無垢な白として最小限のデザインにすることにしました。青みがかった磁器と豪華な染め付けで有名な有田焼ですから、その2つとも引き算することで、良くも悪くも有田焼という文脈からは外見上分断されることになります。焼き物が究極にシンプルになる一方で、デザインの変化や面白さを「洗える紙製スリーブ」に託しました。

スリーブは何度も洗って使用できる特殊な紙を使用していて、処分時には焼却が可能です。紙の再生は焼き物よりも進んでおり、洗える紙だとしても耐久年数も焼き物より短いことから、外見上の「遊び心」として活躍してくれます。自分で自由にアレンジしたり、染めたり、インテリアの雰囲気に合わせて変えたり、スリーブを付け替えてその場に合わせて変化させながら使うことができます。煎茶堂東京のオンラインストア上では、スリーブの「型紙」を無料で公開し、自分で好きなスリーブを自作していただくこともできるようにしました。

割れてもなお、使い続けられるもの。

器は使用するかぎり、欠けや割れが生じてしまいます。このうつわも、割れれば燃えないゴミとして捨てることになるのでしょうか。そんなときにも、日本には直して使う「金継ぎ」という技術があります。永く使える、直したいと思える器であれば、欠けや割れに対して、捨てて新品を買うのではなく、金継ぎを施して愛着をもって引き続き使用してゆけるのではないでしょうか。直した跡も美しく、新たな価値が付加される。お茶の器はやはりそうしたスタイルを推奨していくべきではないかと思います。今後は販売だけにとどまらず、その後のサポートも責務と考えています。

不完全な美と茶。

“茶道は本質的に不完全なものへの崇拝であり、人生というこの不可能なもののなかで、何か可能なものを成し遂げようとする繊細な企てである。” (岡倉天心『茶の本』)

茶の湯の美は、不完全なものに見出す美と形容されることがあります。今回の製品の、装飾性を廃した普遍的で無垢な白(余白)に対しての使用者によるアレンジや、割れや欠けの修繕による変化によってこそ成り立つ美意識を含めた「うつわ」のあり方をつくれないか、というのが私たちのひとつの解です。見た目だけの日本らしさではなく、価値観としての日本の美を提示していくことで、改めて日本的なものについて考えるきっかけになればとても嬉しいです。秘めた価値観にこそ日本的ななにかを感じるような製品、店舗でありたいと思います。

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