
「結局、あんこってものすごくシンプル」あんこ作りに欠かせない2つの大切なもの。都松庵インタビュー vol.3
2022年02月25日

by 神まどか
煎茶堂東京・東京茶寮/デザイナー 青森県生まれ。最近の趣味は中国茶と茶道具収集です。
煎茶堂東京オンライン/銀座店で3月1日(火)から販売を開始する「さくらの煎茶×都松庵AN DE COOKIEセット」。
今回のセットに含まれる「AN DE COOKIE」は、京都で約70年の歴史をもつあんこ屋が手がけるあんこ菓子専門店・都松庵(としょうあん)のお菓子です。
歴史がありながら新しい風の流れを感じる都松庵のこと、シンプルでミニマルなパッケージが出来た理由やデザインについて、都松庵の中尾元さん、桑原春菜さんにお話を伺いました。
都松庵について
あんこの魅力と可能性を、あんこの概念に囚われない発想から提案し続ける。昭和25年創業。京都堀川三条に本店、京都タワーに「KYOTO TOWER SANDO店」を構える。
>>この記事はvol.2の続きです
BLUE BOTTLEとのコラボの話
桑原:
いろんな企業さんとコラボだったり、今回のお声がけいただいてのコラボもそうですけど、そういったほかのメーカーさんや企業さんとコラボさせてもらえるからこそ空気の循環が内部で良くなってる部分もすごく多いんですよ。
ほかの企業さんのやり方を見習わせてもらえて、それを生かしやすい環境があるというのもありますね。ずっと続いている企業さんとかだとなかなか難しいところもあるのかなとは思うんですけど。
神:
確かに凝り固まってしまう部分はあるかもしれませんね…。ちなみにコラボレーションで苦労したお話などありますか?
中尾:
コラボさせていただいてるBLUE BOTTLE COFFEEさんは、オーダーからローンチのスピード感がすごく早くて勉強になります。ただこちらが慣れていない部分が多いのですごくバタバタしてしまうんですけど。
向こうさんから「こういうのがやりたい」というオーダーがあって、それをかたちにするんですけど、うちの親会社のほうに開発の人間がいて羊羹はかなり得意なんですね。
その開発の担当者もかなり知見があるので、オーダーもらったらうまくバランスよく作ってくれるとこがあって。私が窓口でやってるんですけど、私とその開発者で相談して決めていって、それが結構ピタッとはまるパターンがすごく多くて。
神:
おお、じゃあ割とスルッと。
中尾:
そうなんですよ。じゃないと多分あのスパンでは絶対商品出せへんので、割と一発ではまることが多いです。
今、テリーヌショコラという羊羹をBLUE BOTTLE COFFEEさんで出してもらってて、その時はタイミングよくちょうどチョコの羊羹の試作を作ってたんですね。
結構いいのができてて、これは都松庵でやりたいなと言ってた矢先にBLUE BOTTLE COFFEEさんからそういうオーダーがきて。そこから少し調整はしましたが、そんなに時間もかからずに決まりました。タイミングもいつもすごくいいんですよ、なぜか。
“羊羹”であることが何より大事
神:
うまくいくのは、さっき仰ってましたけど羊羹に関するノウハウがあってこそですね。
中尾:
そうですね。失敗もいっぱいしたと思うので、なにしたらあかんっていうのをほんまに分かってて。羊羹としてこれはあかんやろっていう。やっぱりちゃんと“羊羹”じゃないと駄目なんですね。
いろんな味を入れてもベースが「やっぱりこれは羊羹だね」というものでなくてはいけません。そこは絶対にブレちゃダメなところだと思います。
神:
なるほど。一番大事なところですよね。見失っちゃいけないところ。
中尾:
そうなんですよ。でもそこを、BLUE BOTTLE COFFEEさんにしても、煎茶堂東京さんもそうですけど、多分いろんな繊細な味を自社でいろんなこと試されて持ってはるんで、気づいてもらえるんですよね。
しっかり白あんが生きてますねとか、ベースのあんが生きてるってことに気づいてもらえる。なので、そういう取り組みは一番やっぱり嬉しい。ありがたいというか。分かってもらって、売ってもらってるっていう感じがするんで。
神:
はい。しっかりお客様に伝えていけるようにしたいですね。
中尾:
ありがとうございます。
あんこに欠かせない2つのもの
神:
最後に、都松庵さんのポリシーや譲れないものを教えていただけますか。
中尾:
そうですね…。第一にあんこづくり、第二にあんこづくりですね。世の中にいろんなあんこはありますけど、うちが大事にしてるのは、やっぱりしっかりと豆の味がするということです。
羊羹にしてもなんでもそうなんですけど、小豆の風味です。ちゃんと豆が残ってて豆の味がするあんこっていうのは大事です。
そのために水については非常にいい水じゃないと風味が消えるんで、そこも譲れません。
結局、あんこってものすごくシンプル。もともと本家の東山のほうに山梨製餡というのもあるんですけど、そこで今生あんというものを作っていて、それを使わせてもらってます。
京都の地下水で炊いている本家のほうも100年続いてるんですけど、なんでそんだけ続いてるかって、そもそも使ってる水がいいとか、小豆とか、その辺の素材は間違いなく大事です。
その生あんが水ようかんになったりするんですけど、そのベースのあんこがやっぱりいいから最終的に水ようかんも美味しくなる。
夏場は水ようかんばっかり作るんですけど、それに関してはずっとこだわっています。
親会社としたら長年の一番のメイン商品なんですけど、支持されてるのはそういうとこなんだろうなっていうのは思いますね。
神:
あ、水ようかん、食べたことあります。みずみずしくて最高でした!
中尾:
もう食べていただいてるんですね。水ようかんは水っぽくなりすぎても駄目です。そのバランスは難しいですけど……でも絶対水は大事。
神:
やっぱり京都ってすごく地下水が潤沢ですよね。南禅寺のところにも水路があって。
桑原:
水路閣があるところですね。
中尾:
料理もそうですし、お酒とかもね。どうしてもそうなりますよね。
神:
そうですね。水と素材が何より大事ってことですね。
ちなみに素朴な疑問なんですけど、お茶は同じ茶葉でも作る年で味がガラッと変わったりするんですが、小豆って作る年によって味が変わるものなんでしょうか?
中尾:
どうなんだろうな。でも小豆の出来は結構あるみたいで、風味というよりも粒の大きさとかは変わるみたいですけど。
むしろ今は丹波大納言の小豆とかがすごく採れなくなってるんでそっちの心配がありますね…。北海道の小豆にしても不作で結構危ない時期があったんでそっちの問題のほうが大きいですかね。
外国産を結構使うとこも出てきたんですけど、うちの場合は使ってません。しっかりと国内産のものが手に入るかが重要ですかね。
特にうちの場合は使ってる量がすごい多いんで。お茶はそうでもないんですか?
神:
お茶も天候にもちろん左右されますね。結構、産地が分散されてるので、ここがダメだったから全滅ということはないかと思います。
中尾:
そうか。小豆は結局、北海道に偏ってしまうんです。9割ぐらいかな。
桑原:
そうですね。9割。
神:
わ、そうなんですね。大変ですね…。羊羹もお茶も大地の恵みを受けてるからこそ、口にできるんだということを改めて感じるお話でした。
3月1日(火)から、春限定の「さくらの煎茶」と都松庵さんの「AN DE COOKIE」がセットで販売されます。「AN DE COOKIE」と「さくらの煎茶」、シンプルにすごく合うと思って選ばせていただきました。
中尾:
「AN DE COOKIE」は今っぽいお菓子に見えますが、ずっと昔からあるおやつです。生あんとバターの風味がほろっと溶ける、うちの人気商品です。
小麦粉を使わないで「生あん」を米粉生地に練り込んで作っていて、素朴な美味しさです。お茶によく合うと思いますよ。
神:
今回セットの「さくらの煎茶」は、茶葉に桜の葉を混ぜていて、お茶はしっかり深い味わいなのでぴったりだと思います。
桑原:
そうなんですね。今回(AN DE COOKIEの)さくらのフレーバーも選んでいただきましたが、こちらにも桜の葉が練り込んであるんですよ!
神:
そうなんですか! 口の中が桜の香りでいっぱいになりそうですね。楽しみです。
中尾:
間違いないと思います。「さくらの煎茶」と「AN DE COOKIE」で皆さんにほっとしていただけたら嬉しいですね。