【落語×お茶】TOKYO TEA JOURNALは拡張現実?落語家・立川吉笑 対談記事
2020年12月22日
煎茶堂東京が運営する“お茶の定期便サービス「TOKYO TEA JOURNAL」”では、毎月お茶と共通点のあるテーマで特集を組んでいます。2021年1月に発行されるVOL.21では「落語」をピックアップ。落語の噺の中でお茶を飲む動作が多く見られるなど、実は接点の多い“お茶”と“落語”の関係性を探ります。
VOL.21の落語特集に関連して、今最も注目の二ツ目・立川吉笑氏と煎茶堂東京のコラボレーション<煎茶堂東京オリジナル落語>を企画!今回は<煎茶堂東京オリジナル落語>リリース前に、立川吉笑氏と煎茶堂東京のクリエイティブ・ディレクター青栁・谷本で実施した対談記事を公開します。
立川吉笑(たてかわ きっしょう)
落語家。1984年生まれ。京都市出身。2010年に立川談笑に弟子入りし、12年に異例のスピードで二ツ目に昇進。現代的なコントやギャグ漫画の笑いを古典落語的世界観で表現する「擬古典」を得意とする。http://tatekawakisshou.com/
contents 落語で「人間」が好きになる
落語の世界に落とし込む「江戸のサブスプリクション」?
青栁:以前デジタルツールのPR落語を作られてましたよね。そういう時って、サゲ(=笑い話など物語の結末)から考えますか?
吉笑:あまりサゲは重要視していないです。それよりはどうやって落語っぽさを出そうかなぁとまずは考えます。
青柳:落語っぽさ。
吉笑:落語って「落語ならでは!」みたいな要素が実は少ないんです。着物を着て、座布団に正座しているから見かけはインパクトありますけど、それ以上に落語らしさを出すことって短時間だと僕の場合は結構難しくて。「するってぇとなにかい?」みたいな強い江戸弁でもないし、話法としてはそんなに特徴がなかったりするんです。
青柳:なるほど。
吉笑:だから立て板に水でダーッてまくし立てる啖呵(たんか)みたいな、日常ではあまりみない落語ならではの話法を使った方がいいよなー、とか考えます。
谷本:今回はどんな感じになりそうですか?
吉笑:今回の場合は時間の制約が無さそうなので、落語らしさをどうやって出すかというよりは、やっぱり内容が大事になってきますよね。ちなみにどんな感じがいいとか、希望はありますか?
谷本:そうですね。まずは煎茶堂東京を知らない人に見てもらうっていうのができたらいいなって。つまり大きく「お茶」っていうカテゴリのサイズ感でいいのかなとは思います。
青栁:そうそう。
左から、青栁・谷本
吉笑:もちろん噺の中に具体的な商品を入れることはできますし、それとは別に、マクラ(=演目に入る前の導入部)で、雑談っぽい感じで商品を紹介していく、みたいなやり方もありますね。
青栁:あ、それは嬉しいです。紹介したいものは色々あるんですけど、詰め込みすぎてなんかTVCMっぽくなっちゃうな~っていうのはあって…。“お茶っていいな”ってなる方がいいなと思って。
吉笑:だったら今回の題材として扱うのはTTJ(TOKYO TEA JOURNAL)に絞るのが良いんじゃないかなぁと。「お茶のサブスク」っていうのがやっぱりキャッチーなんで、そこを全面に押し出すっていう。単純にたとえば、はっつぁんと隠居さんと熊さんがいる落語の世界の中にTTJがあったら、それぞれどう振る舞うか描くみたいな感じとか。
青栁:あー、嬉しいです。
吉笑:もちろんマクラで煎茶堂東京とかTTJの説明して、その上でTTJについて掘り下げて行くっていう。
青栁:吉笑さんの創作落語を色々拝見させていただいて、現代が舞台の噺ももちろん好きなんですけど、同じくらいはっつぁんとか熊さんとかの世界観っていうのはシンプルに僕、好きで。ザ・落語っていう。異世界のファンタジーになると思うんですけど、なんか、いいなあって。
吉笑:サブスクって言葉はもちろん江戸時代にはなかったですけど似たような仕組みがあってもおかしくないですよね。
青栁:昭和で言うと頒布会っていうのがあって、いわゆる同じものが毎月継続して送られてくるっていう。
吉笑:あー、それこそ富山の薬売りとか、酒の三河屋さんとか、定期的にお店側が届けに来てくれる仕組みはありますよね。なんかそういう雰囲気、憧れるんです。牧歌的というか、豊かというか。
青柳:それを落語で描くっていうことですね。
吉笑:TTJ以外には、透明急須にも驚きました。説明書にはお湯を入れても熱くならないって書いてあるけど「そんな訳あるか!」って。でも実際持ったら…。
青柳:熱くないんです!
吉笑:八っつぁんとか熊さんが集まって、「熱いに決まってるだろ!」「本当に熱くねえんだよ!」「嘘つけ!」みたいに透明急須を取り囲んで口論しているだけでも面白そうです。
青柳:たしかに(笑)
お茶のサブスクリプション「TOKYO TEA JOURNAL」
吉笑:現時点で煎茶堂東京と出会っていない人にとっては、「お茶のサブスク」ってのは新鮮な情報というか、とても興味深いと思います。値段もめちゃくちゃ手頃ですし。TTJを始めるにあたって、どういうことを考えられたんですか?
青栁:お茶に関わらず、こういうサブスクっていう形で商品を届けるところは色々あって。我々が一個線引きしたかったのは、コモディティ化したくなかったんですよね。流行みたいになっちゃうのは嫌だなと。ちゃんと普遍的に広がっていって欲しい。
吉笑:なるほど。
青栁:一方で、我々が定期的に茶葉を届けるだけだったら、モノは届きますけど、生産者の想いとか我々の想いとか、お茶をどうして欲しいっていうのが絶対伝わりにくい。
吉笑:うん、うん。
青栁:一緒に冊子もお届けして、その中で世界観を表現したり、お茶の魅力とか楽しみ方を伝えたら、そこを補えられるかなぁと。もうお茶を飲むだけでいいし、より深く知りたい方は情報も合わせて見ることができる。どちらにも楽しんでもらいので、この茶葉と冊子をセットにしてサブスクで展開してます。これはありそうで実はほとんどないんです。
吉笑:めちゃくちゃ良い手法と思いますけど、なんでやられないんですか?
青栁:手間が…コストもめちゃくちゃかかるので…。
吉笑:なるほど!たしかにこのクオリティの冊子作るのって大変そうだもんなぁ…。
お茶×落語。切り口を探る
吉笑:TTJを読みながらお茶を飲んでもらうことで、普通に飲んだ時よりもお茶の味わいが変わりうる…っていう仕組みは、拡張現実的で自分の好きな題材でもあります。
青柳:ありがとうございます。
吉笑:そっちの方向でネタを作るなら、「お茶を一番美味しく飲めるシチューエションを設計していく」みたいなのは面白いかも。
青柳:ほう!いいですね。
吉笑:美味しいお茶をいれること以上に、とにかくお茶を飲みたいと思わせる方法に長けた茶道の師範の物語、みたいな。相手の喉を乾かせる特殊能力を持っていたり(笑)
青栁:馬鹿馬鹿しくていいですね(笑)とにかくお茶を知ってもらえる落語になるといいなあっていうのは一番大きいところで。僕らの文脈、想いとしては、生活の中にお茶をもっといろんな切り口で取り入れて欲しいなと。それこそジャケ買いのように缶の色を見て買ってもらってもいいし。「シングルオリジンって何?」ってところから興味を持ってもらってもいいし。
吉笑:シングルオリジンっていう表現はどうして使われてるんですか?
青栁:一般名称に近いんですよね。コーヒーとかワインとかがシングルオリジンって言われたり。
吉笑:あー、そういう文脈をお茶に転用されたんですね。
青栁:はい。
吉笑:それはそのまんまネタにできる構造ですね。ワインの文脈での振る舞いを、そのままお茶に置き換えていくっていう。
青栁:おお!
吉笑:「ソムリエがいる」「テイスティングする」「飲む前にコップを回す」「飲むときにズズって音を出す」「1962年ボルドー産」「ボジョレ・ヌーボー」みたいなワインから連想される要素を、それぞれお茶に置き換えたらどうなるか想像するだけで笑えてきます。急須から湯のみに注ぐときに、最後、ワインボトルみたいにクルって回す「お茶ソムリエ」がいたり(笑)
お茶はどう飲むと美味しい?知識<情緒?
吉笑:ちなみにお茶を美味しく飲もうと思ったら、理想はどうやって淹れたらいいんですか?
谷本:そうですね。理想を言えば「誰かに淹れてもらう」っていうのが一番美味しいと思いますね!
吉笑:そうなんですね(笑)なんかお茶を淹れるときって強迫観念があるというか、せっかくだったら美味しく淹れたいけど、正解を知らないから不安になるんです。お湯の温度とかお茶っ葉の量とか、そういうルールが分からないから、なんか取っ付きづらい。
青栁:確かにありますね。美味しく淹れるっていうのでいうと、今までこうレシピがなかったっていうのが課題でしたね。だから我々は一応レシピとして湯量、温度とか茶葉のグラム数とかを定義しています。
吉笑:ネットとかで調べて「茶葉は4グラム」って理解しても、その4グラムを測るすべがないんですよね。スプーン3杯っていうのも「自分のスプーンは果たして一般的な大きさなのか?」とまた不安になるんです。
青栁:そういう方、多いですね。だから僕らが最初4グラムのパッケージを設計したのは、それを見てもらって「あ、これが4グラムね」って視覚的に記憶してもらうっていう。
吉笑:なるほど!
青栁:家でだと僕らも測ってないんで。大体4グラムはこれくらいだろうって、体験として覚えてる。あとは写真でも「大体これくらいですよ」ってわかるように等倍で掲載したりしています。
煎茶堂東京のリーフレット
吉笑:(リーフレットを見て)あ、4グラムってこれくらいなんですね…。思ったより結構多い。たぶんこれまでケチって1.5グラムくらいでいれていました。それなのに美味しいって思ってました(笑)
青栁:でも、それで良いと思います。肩肘張ってアカデミックに淹れるのもいいけど、「誰と一緒に飲もうかな?」とか「1人でほっこりしようかな」とかそっちの情緒的な方が実はお茶のうまみって感じやすいだろうなと思いますね。
吉笑:そうか、落語も一緒です!落語初心者の方に「何から勉強したらいいですか?」って質問されることがあるんですけど………答えとしては「何にも勉強なんかしなくて大丈夫」っていう。肩肘張らずに聴いてもらって十分楽しめるようになってますからって。普段そう答えてるけど、お茶については調べちゃいました…何グラムがどうとか。ほんとはそういうのなくっていいんですよね。
TOKYO TEA JOURNALの楽しみ方とは?
吉笑:TTJは、作り手としてはどうやって楽しんでもらうのが一番嬉しいですか?やっぱり土曜とかの休日に落ち着いて楽しんでもらいたい感じですか?
青栁:いいですね、土曜の休みの日。僕と谷本でも違うかなと思うんですけど、僕的にはまず冊子を見て、「ほほぉ」とひと通り感動してもらって。
吉笑:まずは感動してもらう(笑)
青栁:それから、お湯を沸かして、また冊子を見て。淹れ方も載せてるんですが、ペアリングとかも出てきたりするので「お茶ってこう合わすといいのね」っていうのをカジュアルに読み込んでもらって。お茶って面白いなっていう、ここまでが体験としてセットされると。
吉笑:やっぱりお茶をいれながら、そして飲みながら読んでもらうのが良いんですね。
青柳:でも、やっぱりそうやって肩肘張る感じだとちょっと苦行に感じる方々もいるはずで。
吉笑:わかります。「ペアリングがこうだから…」みたいな情報で頭がいっぱいになっちゃって、気づいたら一切味を覚えていないみたいな。
青栁:(笑)だから「どう淹れたらいいですか?」っていう質問に対しては「こういう状態の方が美味しいよ」っていう答えがあるにはあるんですけど、身構えられてしまうと思うから「いいんだよ適当で」と。「それよりも飲みたいときにゆっくり飲んで」っていうのが一番ですかね。
吉笑:谷本さんはどうですか?
谷本:そうですね、まあ僕は、TTJにいつも2種類の茶葉を入れてお届けしてるんで、これを飲み比べして欲しいんですよね。
吉笑:あっ、同時がいいんですか!
谷本:ベストは。でも急須がないっていうケースも多いと思うんですけど、同時に飲んでもらったらそれぞれの違いが際立つというか。
吉笑:たしかに僕はまだお茶の良し悪しの前に、違いも分からないです。そもそも前に飲んだ味を覚えていないっていう。同時だったらさすがに違いは分かる気がします。
谷本:そうやって色々なお茶を飲んでいると、だんだん違いはなんとなくわかってくるとは思うんですよ。そうなったら、気分によって「今日はこっちの方がいいかな」って選んで飲むのも楽しいし、初めて見る茶葉も「渋みが星3つだから甘いものと合わせたら美味しいかも」みたいに思えたり。
吉笑:そんな生活、憧れます!
谷本:今日はお土産でもらったこのお菓子があるから、このお茶にしようかな、みたいな感じとか。
吉笑:食べものありきでお茶を選ぶの素敵ですねぇ。
青栁:お茶は単体ではあまり楽しまないよねっていう。誰か人がいたり、何かスイーツがあったりっていう。お茶は、やっぱりシチュエーションとしてプラス1な存在であって。お茶を単体で楽しむっていう感じじゃないのかなぁって。
吉笑:あー、たとえば遊びに来てくれた友人にお茶を淹れてあげて。その友人が、その場では何気なく飲んでるけど、帰り道にふと“そういえば、さっき飲ませてもらったお茶、ちょっとお茶美味しかった”って思い出すみたいな。
青栁:「あれどこのお茶?」とか聞かれるとすごく嬉しいです。
吉笑:落語だと隠居さんの家でお茶を出されても、主人公がちょっと飲む描写があるくらいで、そのあとはもう噺に出て来ませんけど、物語の佳境で主人公が「それにしても、さっきのお茶はなんだか美味しかったなぁ」って味を思い出すみたいな(笑)
青栁:わ、なんか飲みたいなってなる。シズル感みたいな。
吉笑:「大変だ!泥棒だ!!待て~!!……それにしてもさっきのお茶、美味しかったなぁ」って、しみじみ考える(笑)
一同:(笑)
谷本:オリジナル落語では、僕たちの宣伝っていうよりかは、上質な一本の落語を聞いて、その満足感とともにお茶が美味しいみたいな、しみじみ感じるっていうっていうのがなんかいいかもしれませんね。
青栁:古典落語の『まんじゅう怖い』とかも、まんじゅうがすごい美味しそうに見えるんですよね。で、サゲで「今度は熱いお茶が怖い」っていう風に言われたときの、あぁそうだよな、お茶飲みたくなるよな、みたいな、あの感じ。上質な吉笑さんの落語と一緒にお茶を楽しんでもらえたら、こんな嬉しいことはないなと。
情報の解像度を上げる
吉笑:他にも、全く違うやり方だとこういう案件の時に使いやすい技があって。それは煎茶堂東京の物語にしてしまって、青栁さんとか谷本さんをそのまま主人公にしてしまうっていうのとか。
青栁:えぇっ!?
吉笑:「売り上げが落ちてきたけど、何かアイデアはないか?」とか企画会議してる設定で、そこから大喜利的にヘンテコな解決案を羅列していくっていう。例えば「今よりももっと生産者の人柄を知ってもらえるように、お茶を作ってる農家さんの家の間取りも掲載しよう」とか「使ってらっしゃる寝具を紹介しよう」みたいな、めちゃくちゃな提案がバンバン出るっていう。
青栁:聞きたい(笑)
谷本:面白そうですね~
吉笑:「次号は、もう農家さんを直接お届けしよう!」とか。「なんだかんだ実家のお茶が一番美味しんだから、こうなったら農家さんの養子になれる権利を付録にすることで、実際に家族になってもらおう!」みたいな。
青柳:それは究極ですね(笑)さすがにそこまでは無理ですけど、たしかにスーパーで「私が作りました」って書いてる野菜を見ることありますけど、それだけじゃああんまり感情移入できないですよね。
吉笑:あー、「笑い」もそうですけど、一番強いのは相手のことを知っている、相手のことが好き、っていう状態ですもんね。赤の他人がどれだけ奇抜な面白いこと言っても、久しぶりに会うおばあちゃんの何気ない一言の方が面白いですもんね。
青栁:となると、もう少し情報としての解像度を細かくしてあげる必要性は現代だからこそあるなと思いますね。
吉笑:確かに。そういえば高円寺のスーパーに納品されている野菜の中に、生産者さんの写真が載せてあって。
青柳:「私が作りました」みたいな。
吉笑:えぇ。その写真がどういうわけか、おっちゃんが野球やってる時の写真なんですよ。
一同:(笑)
吉笑:趣味の草野球なんですかね、ユニフォーム姿の生産者さんが写っていて。気が付いたら、もう好きになってるんです。別の時に行ったときもまずはあのユニフォーム姿の写真が見たくてキャベツを探しに行くっていう。
青栁:ファンじゃないですか!(笑)
吉笑:プロ野球チップスみたいな感覚で。付録の写真に愛着でてきて、好きになるっていう。とにかく相手の背景わかった方が絶対にいいですよね。それは落語もそうで、結局知り合いになったら強い。連れの話はやっぱり面白く感じるんで。
青栁:そうですよね!もはや僕らからすると、落語でいうと吉笑推しになるわけですよね。
吉笑:知り合いになるとね、そういうもんですよね。
青栁:ええ。
吉笑:とにかく自分が思う煎茶堂東京とTTJの良さを伝えられるように頑張ります。
青栁:お願いします。聴いた方が、少しでもお茶に興味を持って頂けるきっかけになったら嬉しいです。その上で「煎茶堂東京なんだ行ってみてぇな」みたいになると。
谷本:脚本、出来上がるの楽しみにしてます!
青栁:楽しみですね。
吉笑:はい、色々ネタの切り口はあるので僕も楽しみです。
谷本:よろしくお願いします!