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作り手のことば「楽しむ気持ちが、作品に乗って使い手に届くと思う」陶芸家・フじイまさよさんインタビュー
2024年10月25日
by 煎茶堂東京編集部
アメリカ・カリフォルニアで陶芸を学び、現在は福島県福島市にある古民家で作品づくりに情熱を注ぐ、陶芸家のフじイまさよさん。
今回、煎茶堂東京でフじイさんの作品をお取り扱いするにあたり、フじイさんのお人柄、作品や陶芸に対する想いなどを伺いました。
フじイさん、今回はよろしくお願いします。まずは、簡単なプロフィールを教えていただけますか。
よろしくお願いします。
私は1997年、アメリカ・カリフォルニアのFoothill Collegeにて、陶芸家のGeorge Bruce氏に師事した後、1999年に帰国しました。当時は都内で作品づくりを行い、個展やグループ展のほか、デパートのポップアップやクラフトフェアなどに出展していました。
2005年には「陶芸スタジオえあで」という陶芸教室を設立したのですが、2018年に長期休止。作家活動に専念することにし、このタイミングで工房を福島県福島市へ移転しています。
2023年には工房を拡張するため、福島市茂庭にある築110年の古民家に移転しました。現在は、山暮らしを楽しみながら器づくりを続けています。
6年前に東京から福島へ拠点を移転されたとのことですが、作品づくりや心境に変化はありましたか?
自然の光や風を感じて製作できる環境、季節の野菜や草花を常に取り入れた暮らしを当たり前に重ねることで、生き方や作品のスタイルも変化してきていると思います。
作品のスタイルでいうと、シンプルでありながらこだわりを少し盛り込んだ、今の自分が心地よく、使いたいと思うデザインを考えるようになりました。性格ものんびりになりました。
作品を作るときのインプットはありますか。
夏の早朝の霧、冬の雪景色、春の新緑の芽吹き、秋の紅葉、空、星空、雨音、いきものの生命力…。山暮らしにおける、日々のちいさな感動からインスパイアされていると感じます。
最近はあまりゆっくり時間を取れませんが、過去に鑑賞した美術館の図録を開いて、トキメキをよみがえらせるのも好きです。
フじイさんは、カリフォルニアで陶芸を学ばれたそうですが、アメリカの陶芸と日本の陶芸の違いについて教えてください。
ろくろの回転が逆です。日本は作りも削りも両方時計回りがあるそうですが(※)、欧米やアジアは作りも削りも反時計回りです。理由や違いは諸説ありますが、細かなところはよくわかりません。
製作のスタンスも違いました。アメリカでは、アートのクラスだったこともあり、同じ形を作ることより「誰も見たことがない作品を作ること」を重視する傾向がありました。
近代・現代の欧米の陶芸作家から影響を受けたことは、大切に作品へ落とし込みたいと思っています。
「近代・現代の欧米の陶芸作家から影響を受けた」とのことですが、具体的にどのような影響を受けたのでしょうか?
『民藝』活動で提唱された「用の美※」に光を当てた、柳宗理(やなぎ・そうり※)やバーナード・リーチ※の審美眼というのが、20世紀はじめの日本、世界におけるトレンドでした。
リーチによる日本ブーム(名もない職人技、工芸品、機能美への注目)真っ只中のイギリスにおいて、独自のスタイルを追求していたルーシー・リー※やハンス・コパー※の存在を知りました。それは、陶芸の印象ががらりと変わる出会いでした。
私の渡米が、ルーシーの亡くなった翌年だったこともあり、カレッジのクラスでも話題になっていました。2人の作品はシンプルなのに挑戦的。ルーシーの作品は都会的、ハンスの作品はプリミティブ(素朴)な個性が魅力です。
ルーシーの「ゆらぎ」やコパーの建築的なたたずまいは、和室の床の間や現代のインテリアにも調和するので、今も陶芸関係以外の若いファンも多くいます。
私は、2人に共通するろくろを使う製作方法に好感を持っていて、質感や形へのこだわりには憧れを抱いています。
特に、ルーシーは女性陶芸家のパイオニアで90歳近くまで現役でした。ロンドンの中心部にあった自宅工房の電気窯で焼成するシティ派で、伝統的な薪窯焼成を重んじるリーチとの交流もありながら、独自のスタイルを築いていました。
白いシャツ、白いエプロンで作業するなど、私生活のセンスの良さもクールです。
ルーシーのアシスタントとして作陶を開始したハンスがそうだったように、現役の欧米、日本の作家の多くが、ルーシーの影響を受けていると思います。
フじイさんが好きな工程と理由を教えていただけますか。
ろくろ成形の工程が好きです。うまくいけば「今の感覚をもう一度!」と思うし、スッといかないときも「次こそは!」とループにはまります。
集中と緊張感が必要ですが、「無」になる感覚もあり、ヘトヘトになるほど作ってもスッキリとします。
実際手に取る人にとって、フじイさんの作る器がどのような存在であってほしいですか。
静かな日々の暮らしの中で、ちいさなこだわりを込めたデザインでワクワクさせたり、ハレの日にも頼れたりする器であれたらうれしいです
器づくりで一番大切なことは何だと思いますか。
楽しく作ること。楽しむ気持ちが、作品に乗って使い手に届くと思っています。
最後に、今後挑戦してみたいことがあれば教えてください。
ずっとデザインを温めていた、ペットの「フードボール」を早く形にしてみたいです。
フじイまさよさん Instagram:@fujii_msy 公式サイト:https://www.erde-msy.jp/ |