ワイングラスで飲む煎茶の愉悦。私が嗜好品としての「お茶」に目覚めるまで

こんにちは。東京茶寮・店長の井原です。 

2019年最後の更新となる今回は、ここまでお茶を愛するようになったきっかけと、お茶を存分に味わうためにたどり着いた、ワイングラスで飲むこと、その良さについてお話をさせてください。

個人的に推していきたい、お茶を嗜好品として楽しむ方法。そのヒントになれば幸いです。

 

嗜好品について考えたきっかけは、とある大学の講義でした

例えば夕食時、気軽なイタリアンを作ったから今日はワインにしよう!とか、ちょっと寒いから焼酎のお湯割り、暑いからビールで乾杯!とか。気分で飲むお酒を変えるように、わたしは「今日はお茶が飲みたい」と思う日があるんです。

それは、お酒を飲めない・飲みたくないという状況からの選択ではありません。お茶もお酒も、わたしにとっては同じ嗜好品だからなんです。

 

そもそも、嗜好品って何でしょう。辞書によると“栄養をとるためではなく人の好みによって味わい楽しむ飲食物”とあります。嗜好や嗜好品について考える時、わたしは大学時代を思い出します。

 興味のあった醸造学科の授業の中から、単位が取りやすそう…というヨコシマな気持ちで選択した「嗜好文化学」。正直、授業の内容はほとんど覚えていないのですが、ただ一つ、とある授業の一節だけは、今も鮮明に覚えています。

 

“どんな国でもスープ(だし)をとって料理に使うが、昆布など植物性の素材からだしをとるのは日本だけである”ーーーわたしたちにとっての当たり前は、世界から見ると珍しいという事実に驚き、なんて面白いんだろう!と興奮したんです。

その授業の続きで、国によって異なる食文化のバックボーンには地形など環境面からの必然があるということ、嗜好も同じように外からの影響で育まれるものだということ。言葉はおぼろげだけど、嗜好についての考え方として、胸に落ちてきました。

 

水一滴で、驚くほど味が違う。働いていたウイスキーバーで学んだこと

皆さんは、ウイスキーに水を一滴だけ垂らして飲んでみたら、どうなると思いますか?

ー驚くほど、味が激変するんです。今でもその瞬間を思い出して悶絶しちゃうほどに…。

 

これは、世界一旨いウイスキーを飲ませる場(BAR)がコンセプトのウイスキーバーで働いていた頃のお話です。ウイスキーは、銘柄によって水を加えることで味のバランスが完璧に整ったり、逆に崩れてしまったりするものがあるんです。

 それだけではありません。銘柄ごとに最適な器(グラス)や飲む温度、割り方にベストなレシピが存在するんです。働いていたウイスキーバーでは、スタッフ全員がベストなレシピをベースに、お客様の様子を見ながらおすすめを提案していました。

一杯目と三杯目は飲み方も違いますし、お客様は空腹なのか、満腹なのか?一緒に食べているものとの相性は?など、その時の状況で美味しいと感じるものは変わるんです。

 

とにかく、その試行錯誤が面白くて。嗜好品ってこういうことだって思ったんです。ただ飲むだけではなく、より美味しく味わうには?その時間を楽しむには?を一生懸命に考えて、試して、味わって、それがたまらなく愛おしいんです。

 

ワイングラスで煎茶を飲んでみる。お茶=嗜好品であるわたしのとっておき

かつて働いていたウイスキーバーで嗜好品の面白さを知り、現在の東京茶寮で働くようになってから、お茶もウイスキーと似ているところがたくさんあると気がつきました。ただ喉を潤すために飲む「飲み物」ではなく、「嗜好品」として楽しめる奥深さがあると。

今の気分は?一緒に食べるものは?自分自身に真剣に問いかけて、お気に入りの茶葉を吟味して…こんな風にお茶を楽しむとき、わたしにはこだわりがあります。

それは、湯呑みではなく透明なグラスでお茶を飲むこと。特にワイングラスがお気に入りでよく使っています。

 

ここからはわたしの嗜好的お茶の楽しみ方ルーティン。

ウイスキーバーで働いていた経験から発想したオリジナルです。

 

グラスに注いだお茶を光にかざして、思う存分お茶の水色(すいしょく=お茶の色)を愛でます。この一瞬にお茶農家さんへのありがとうを存分に込めて。そうしようと決めているわけではないのですが、ただただ美しい水色を眺めているとうっとりとして、いつの間にか思いを馳せてしまう…。

ウイスキーのこっくりとした琥珀色が熟成によって年月をかけて完成した色ならば、お茶の水色はどこか儚げで、グラスにそそいだその瞬間に「このために1年かけてお茶農家さんがお茶を作っているんだ…」と胸がいっぱいになって、尊さを噛みしめます。

そして、グラスを回して立ち込めるお茶の香りをいっぱいに感じます。ワイングラスの内にすぼまった飲み口のおかげでグラスの中にたゆたう香りを逃さずに楽しめるんです。香って、ほっとして、飲んで。青い香り、深い香り、お茶ごとの違いを発見して感動して…。

 

こんなふうに、少しだけ時間をかけてお茶と向き合うと、ひとたび嗜好の世界の扉は開きます。

美味しい淹れかたや飲み方の研究みたいな堅苦しい感じではなく、自分の好きなお茶を、自分の気分に合わせて選んで、美味しく飲む。ただそれだけなんです。

 

嗜好品としてお茶を楽しむ人がもっと増えたらいいな、と密かに願っています。

スタッフコラム

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