6,000円以上で送料無料!平日9時までの注文で当日出荷。金(9時以降)~日祝は翌営業日発送。

海苔は農業?初摘み海苔専門店「ぬま田海苔」沼田晶一朗さんインタビュー・前半

2020年11月30日

by 煎茶堂東京編集部

お茶の定期便「TOKYO TEA JOURNAL」では、毎月500円(送料別)で2種類のお茶と情報誌をお届けしています。

VOL.15(2020年7月号)では、浅草・合羽橋に2018年にオープンした「ぬま田海苔」の四代目当主の沼田晶一朗さんをゲストに迎え、“初摘み海苔”について特集しました。

今回は、VOL.15(2020年7月号)に沼田晶一朗さんにインタビューした内容を全文公開!誌面では文字数の関係上一部しかお伝えできなかったのですが、初摘み海苔のディープすぎるお話をぜひ皆さまにお伝えしたい!ということで、前半・後半にわけてご紹介します。

教えてくれたのは…ぬま田海苔四代目当主・沼田晶一朗さん

上質な海苔の味を広く伝えるため、「初摘み海苔」のリ・ブランディングに取り組むとともに、noteなどで情報発信を行う。 ぬま田海苔公式HP:https://numatanori.com


──海苔って1年中、生産はしてるんでしょうか。

1年中じゃないんですよ。生産っていうか、養殖自体はだいたい3月・4月ぐらいまでですね。養殖・種付けが10月終わりから始まり、そこから海に網を入れていきます。

そして11月の終わりくらいから海苔の摘採が始まり、だいたい4月くらいまでずっと養殖をしていく。海水温の問題ですね。種付けも海水温が23度以下からが良いと決められています。


──海苔を育てる時、網に種を付けて育てますよね。まず網を育てて、秋になると初摘み用として残すということでしょうか。

まず夏の間は、海苔の赤ちゃんである胞子の培養をカキ殻でやるんです。私、noteで有明の種付け体験記を書いてるんですけど、漁師さんや専門業者がカキ殻を使って海苔の胞子の培養をします。

漁連で決まっている種付けの解禁日っていう、海苔の胞子が付いたカキ殻を網に下げて海に広げて良い日があって、それまではやっちゃいけないんです。去年の解禁日に私も手伝い兼取材で行かせてもらいました。

沼田さんのnote「有明海『海苔の種付け』体験記〜前編〜」

基本的に海苔っていうと、海に網を張って、網に海苔がついて育っていくイメージだと思うんですけど、もともとはカキ殻養殖で、種はカキ殻で培養するんです。

カキ殻を使う理由は抗菌作用。海苔の胞子が、すごく暗いジメジメした場所が好きだったっていう。実は夏場、海の水度が暖かくなってしまうと、海苔は一斉に海から消えるんですよ。

昔は、その海苔がどこに行ったのかというのがずっと分からないままだったんですね。秋に海の水温が下がってくると、海苔が一斉に出てくる。海苔ってどこから出てくるんだろうみたいなことをずっと言われてたみたいなんですけど、それが実は貝殻の中に潜んでたっていう。


──貝の中に?すごい話ですね。

イギリスのドリューさんっていう女性の学者さんが一番最初にそれ見つけたんです。貝殻のなかに潜んでる、じゃあ貝殻使って海苔培養したらいいんじゃないかっていうので。夏の間とかは一生懸命、カキ殻に海苔を培養して、赤ちゃんをしっかりと確保して、自分たちで育てたカキ殻の赤ちゃんを網に仕込むっていうことを始めたんですよね。


──すごい…。カキ殻の謎が解けたのっていうのは何年ぐらいの話なんでしょうか?

以外に最近で1949年、今から70年前です。日本のカキ殻養殖っていうのを一番最初にやったのって熊本なんですよ。なので、今でもドリューさんのお祭りみたいなのがあるんです。

それで、実際にそのスキルを使って海苔を頻繁に養殖して、技術をより進化させていったのは、東京湾のほうなんですよね。川崎・羽田沖で海苔の養殖っていうのはすごく盛んで。その東京湾で海苔の養殖が非常にうまくいって、そのスキルをまた日本全国に分けていったという。

──カキ殻養殖を発展させたという意味では、発祥の地、川崎ですね。

川崎より、どっちかっていうと羽田のほうがメジャーなんですよ。川崎は川崎で、多摩川から鶴見川にかけて遠浅になっていて、その遠浅の中でできた海苔を名前がちゃんと付けられたのが、大師海苔です。

なのでアサクサノリっていう昔は東京湾ですごい盛んだった海苔の品種が、今でも多摩川にいるんですよ。野生では生きてるんです。ただやっぱ養殖ってなると難しいんですけど。


──全然違いますか、味的には。

独特のバリッと感があって、噛んでみるとすごい柔らかいんです。 独特の味ですね。昔ながらの食べてきたものっていうありがたさはありますよ。


──なるほど…じゃあ話は戻りますが、まず解禁日に種付けをして。

はい。種付けというのはまず網に1個1個、落下傘みたいなのを作ります。カキ殻、真っ黒になるんですよ、ビッチリ。真っ黒になったカキ殻1個1個を落下傘にそれぞれ入れていくんですね。

だいたい漁師さんにもよるんですけど、少ししか付けない人もいれば、ひと網に200個ぐらい付ける人もいるんですよ。そこはもう漁師さんのさじ加減っていうか。面白いですね。

──農業みたいなスタイルがあるんですね。

そうですね。本当にみんなそれぞれのやり方とかスタイルでやりますね。 網に200個付いていくんで、網もすごく重いんですけど、その網をだいたい20枚ぐらい用意するんですよ。その網20枚を解禁と同時に海に出て広げていくんですよね。

海に広げていって、順調に育っていけばだいたい1カ月後ぐらいに初摘みの収穫ができるんですよ。そこもたぶん決まってるんだと思うんですよね、いつから収穫していいのとかって。だいたいそこから1週間ぐらいで取れた海苔が初摘み海苔になるんです。


──初摘みっていうのが海苔の旬ですか?例えば野菜でいう“初物”みたいな。

昔は新海苔っていうと、もう本当に初摘みの海苔で、採れたばかりの海苔をさしていたと思うんです。年末年始にかけて新海苔で楽しむみたいな。

今、もうあんまり海苔って旬っていう感覚がないなと思うんですよね。うちだと、なんで初摘み海苔が1年中売れるの?っていう感じするじゃないですか。

今、海苔って保管技術がすごく優れてて、乾(ほし)海苔という焼かない状態で保管すれば、焼けばいつでもおいしく食べれるんです。ただ、もちろん何年も経つと味は変わっていってしまうと思うんですけど。


──乾海苔はいわゆる焼海苔とはまた違うということですよね。

1個手前の乾海苔という状態で保管してます。それを焼いてから賞味期限が発生しますね。


──お茶も同じ構造ですね。1年中、新茶を販売してるというか。

お茶と近い構図もだからあると思うんですよね。新茶もそうだと思うんですけど、初摘み海苔も相場が高い。2番目以降のほうが落ち着くんじゃないかっていう人もたぶんいると思いますし、値段も落ちますし。生産者としては初摘みで1番最初にできたやつ。

──初摘み海苔以外には冷凍という手順があるとか。

冷凍っていうのもありますね。冷凍網っていうのは養殖の仕方ですね。秋芽の初摘み海苔っていうのは3回ぐらいしか採れないんですよ。4回目以降は冷凍網といって、最初、種付けのときに海に多めにまいて、少し種がついた網を間引いて、冷凍したその網をまた海に戻す。

海苔の漁期自体、回数でいったら10回以上は確実にあって、多いときはだいたい20回近く摘み採りをやるんやるんですけど、4回目以降っていうのがだいたい冷凍網になりますね。


──最初に一緒にやっといて冷凍してずらすってことですよね。

そうです。でも初摘みより冷凍網のほうがおいしい・味が安定してるっていう人もいますし、そこはもう好みですね。秋芽の初摘みっていうのは間違いなく柔らかいです。自然に育った最初の海苔。いい意味で味にばらつきがあると思うんですよね。個性豊かというか。

本当海苔屋さんによって全然違いますよ。むしろ秋芽の初摘みだけの海苔屋なんてもうやめたほうがいいってみんなに言われるんですよ。

──やっぱり、他で初摘み海苔専門はぬま田海苔さん以外はなかなかないですか。

さっき言った話じゃないんですけど、絶対にやらないんですよ。まず値段が高い。あとは、柔らかいんではね海苔になりやすい。


───はね海苔。

1割くらいロスというか、売れない海苔が出てくるんですね。柔らかすぎて割れちゃうんですよ。あと、さっきの味の話でいったら、初摘みじゃないほうが絶対おいしいって人もいっぱいいて、海苔屋さんによって評価が違うということで、うちしかないですね。


──それも店頭で味比べができるようにされてるんですよね。

はね海苔を優先的にそっちに回してるんです。どうせ出ちゃうんだったら食べてもらおうっていうので、うちは、はね海苔の販売はしないんですけど。普通は、はね海苔として販売をされると思うんですがそういうことはぜず、店頭で食べ比べしてもらって。

普通、海苔屋さんって食べ比べができないと思うんですよね。特にいい海苔になればなるほど試食ができない。


──確かに。

本当に値段がいい海苔って試食できないと思うんですけど。そういうのもあえて食べてもらうことで、海苔の味の可能性を皆さんに知ってもらえますし。その中から、自分の好きな海苔ってこれだなって思ってもらえたら嬉しいです。そういうふうに使ってます。あとお店で焼いたりもしてますね。


──焼く機械があるんですよね。

はい、うちのアフターサービスとして。焼く前にかなり割れちゃって欠けてるのが出てきたら、そういうの優先的にお店の海苔焼き機で焼いてます。

海苔の体験として昔は家で自分で海苔を焼いて炙って食べるっていうのが当たり前だったんですけど、機械もないし、今なかなかやっぱできる場所ってないですよね。なので、じゃあどうせ割れちゃってんだったら、お店で焼いてお土産に持って帰ってもらおうっていうので。

左が焼く前、右が焼いた後の海苔

──楽しさ、多様性、海苔の広さ、ですね。

初摘みのおいしさが違う海苔をそろえたら、その中で自分の好みでいい海苔が選べる。でも海苔屋さんによって“いい海苔”の基準が、香りがいい海苔、穴が無い海苔、柔らかいのがいい海苔だってなったら、海苔屋さんごとのいい海苔っていうのは、1種類ぐらいしかないんですよ。

だけど、それが横幅でそろったら自分の好みの中でいい海苔が選べられるんで、なるべくそういうチャレンジを今しています。


──海苔の等級は、高級であればあるほど見た目が重視されますよね。どちらかというとぬま田海苔さんが重視するのは見た目というよりも味の部分ということですか。

見た目は正直…逆にあんまり気にしないです。ただ結局、うちが買う海苔っていうのは割と1等・2等とか特等とか、比較的そういう評価の高い海苔が多いので、必然的に色合いとかはいいんですよね。そこが悪いってことはあんまりないというか、等級が逆に付かない。ただそのなかで味を非常に大事にしてます。

ただ、味っていってもうまみなのか、口溶けなのか、後味の余韻なのか、香りなのかとか……そういうところをすごく意識しておいしさの違う海苔をなるべく買いそろえるようにしています。


───海苔のおいしさは、口溶けと厚みとうまみ、あと香り。この四つぐらいの要素が海苔の味わいと考えてよいでしょうか。

そうですね。うまみも、だしのようなものもあれば甘みがあるようなものもありますし、塩味を感じるようなうまみもあります。うまみっていうのは結構奥深いですよね。あとはすごく口溶けがいい、ふわっと溶けるようなものとか、厚みがあるものは噛んでいくとどんどん美味しくなるとか…。あとは香りがもうとにかく最初にバーンって飛び込んでくるみたいなのもあります。

ぬま田海苔のパッケージ。「4.TASTE」で風味や歯切れなど、それぞれの特徴が表記されている。

──うまみの主成分でいうと、何になるんでしょうか。

海苔って実は結構入ってて、イノシン酸・グルタミン酸・あとは、干し椎茸に入ってるグアニル酸も入ってるんですよね。本当ちょっとなんですけど。グアニル酸入ってるのってたぶん結構レアですよね。


──レアですね。干し椎茸の他にあまり聞いたことがないですよね。

日本の三大うまみ成分が入ってる食べ物は海苔だけっていうふうにも一応いわれてます。じゃあ、なんでそれをあんまり感じないかっていえば、干し椎茸も昆布も鰹節もだしをとるときって水に浸すと思うんですよね。海苔を水に浸すってことってまずないじゃないですか。海苔って唾液でうまみがブワッと出てくるんですよ。なので後味が結構強く感じたりとか。

みそ汁に入れたり、あとはお茶漬けに入れたりすると水に溶けてうまみがまた増します。うまみ成分もあれば、あとは体にもいいですからね。


──体にいい成分っていうと、なにが入ってるんですか。
ビタミンD以外、全部入ってます。あとは葉酸、タウリン、食物繊維、タンパク質。だから日本のスーパーフードなんですよ。お茶もそうだと思います。他に日本のスーパーフードでいうと、味噌とかお茶とか。本当に日本に昔からある伝統食だと思うんですけど。伝統食ってそれなりにやっぱ理由がありますよね。


──タンパク質の量、半端ないですね。

実はすごいんですよ。大豆に負けないんじゃないかっていう。


──これは驚きました。プロテインみたいな。

おいしくて体にいいって、なかなか贅沢な話ですよね。海苔って全形っていう大きいサイズを毎日2枚食べたら健康っていうのは昔からいわれてますね。

プラスで、例えば納豆に海苔の粉をかけたり、しじみのおみそ汁に海苔を少し入れたりすると、栄養価の高いもの同士お互いの栄養を引き出すっていう効果もあるらしいんですね。よくしじみのみそ汁に海苔入れると、もっと体にいいよとかいいますよね。


───すごい。面白いですね。

そこら辺の世界は私も聞いた話にはなってしまうんですけど。でも、やっぱり当たり前になっちゃってますからね。だからこそ本当にそういういい海苔があるよっていうのは知ってほしいですし。

──ぬま田海苔さんが有明湾の有明の初摘み海苔にたどり着いた経緯を教えてください。

うちのおじいちゃんの代からだと思うんですけど、昔は川崎で養殖をしていました。だけど、川崎もコンビナート(工業地帯)や埋立地になっちゃってて皆さん漁業権を放棄したんですよね。海苔を作るのをやめてしまったと。うちは本当に実家がコンビナートの2個手前なんですよ。

うちのお客さんていうのは生産者の方がすごく多くて。工場地帯のほうも、元生産者の方がいっぱいいて、そういう方たちってやっぱ自分が昔作ってた海苔の味を知ってるんでおいしい海苔じゃないと駄目なんですよね。

結構うちのおじいさんのときに、いろんな海苔を買って持って行ったりしたけど、まずいと返品とかされちゃうんですよ。


──生産者ならではのこだわりがあったんですね。

いろんな海苔を持ってったなかで、有明海産で初摘みの海苔を持ってったときに、常連のお客さんたちがこれぞ海苔って言ってくれたらしいです。うちは海苔屋としてすごい小さかったのもあって、海苔を大量に買うのは難しいってことで、初摘みの海苔だけを買って。

本当につい最近までは初摘み海苔が3種類ぐらいしかない海苔屋さんだったんですね。母親が本当に頑張って海苔屋さんを継続させてくれてて。電話とFAXが入ると、そういう海苔を届けに行くというか、持って行くというか。そんなスタンスでやってきた海苔屋なんです。


──お客さんの舌に育てられた部分っていうのもある。

もう、お客様にじゃないですか、むしろ。そういう海苔じゃないとおいしくないって言ってくれた人がいてくれたっていう。

後半を読む

インタビュー後半は、川・山・ペアリングや、市場のスパイラルをどう作っていくのか?等級などについてお話した内容をご紹介!

TOKYO TEA JOURNALを詳しくみる

お茶の定期便「TOKYO TEA JOURNAL」

他の記事も読む