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煎茶堂東京が2周年を迎えました。オープンから2年間の軌跡を振り返ります。

2019年11月03日

by 煎茶堂東京編集部

こんにちは。煎茶堂東京の谷本です。

銀座五丁目にある日本茶専門店「煎茶堂東京」は、2019年11月3日(日)に2周年を迎えます。銀座の老舗の大先輩たちと比べ、生まれたばかりの赤ん坊のような店ではありますが、今日まで多くの茶縁を繋げて来られたことを嬉しく思います。


この店の創業前、思えば、根拠のない自信が私たちを突き動かしていました。日本茶のリーフ茶市場が急速に縮小する中、新たに銀座という土地で日本茶専門店、それも煎茶の茶葉だけを扱う店を創業するということはあまり賢明な選択ではないなと思います。


それでも、出会ってきたつくり手たちのことを思うと、絶対にやっていけると信じていました。それでも当然、順風満帆に進んできたことはなく、嬉しい、悔しい、誇らしい、辛い、そうした凸凹とした道のりをつき進んだ日々でした。2周年を迎えるにあたって、そうした過程や想いを改めて文章にして残しておこうと思います。

ちいさな「日本のプラットフォーム」煎茶堂東京

煎茶堂東京は、「シングルオリジン煎茶専門店」という肩書きの店です。

日本全国の「シングルオリジン=単一農園・単一品種の品種茶」を取り揃えることで、日本茶の世界でテロワールの文化提案、ひいてはお茶のスタイル自体をアップデートすることを目指しています。

煎茶堂東京では、お茶を通してお盆や砂時計、陶磁器や紙器を使用します。そのどれもが、日本各地の職人の手で作られているものです。そして、それらが統一されたミニマリズムの世界観の中に整列することで、いわばちいさな日本を表現しています。


なぜこうしたことをしているかというと、発端はお茶というよりも、日本の文化・意匠に対するモヤモヤした個人的な感情でした。


自分が感じる日本の素晴らしい資産は、「引き算」の美学であり、簡素であるがゆえに豊かな情景を感じさせる固有の美的スタイルだと考えています。しかし、日常生活・経済活動の中では、そうした価値観とは反対に、情報過多でデコラティブな社会に向かって加速していっていると感じていました。


なんというか、「なんでこんなにダサいものばかりなんだ・・・!」と憤りに近い感情を感じたのです。恐らく、同じように感じる方もいるのではないかと思います。歳を経るごとに外国文化との比較の中で鮮烈に浮かび上がる日本の魅力。その一方で、いまの日本を見つめてみたときに感じる「これじゃない」感。これから日本にたくさん外国人が訪れるけど、これじゃだめなんじゃないの?と。


日本の美学と切っても切れない関係にあるのが「茶」―――。茶を軸として「建築」や「器」、「花」といった芸術分野が形作られ、精神性とともに発展してきたのが日本の美学でした。茶が消失することは、そうした「美学のゆりかご」が消失することだと思えたのです。

発刊中のお茶の定期便「TOKYO TEA JOURNAL」撮影の一幕


共同で創業した私と青栁はともに、日本文化の成り立ちや著名な先人たちについて書いてある本が好きです。彼らの精神性に共感し、時代の流れに杭を打ち込むような矜持を持つ姿に胸を熱くしていた私たちとしては、茶の継続に貢献したい、現代にアップデートした美学を生み出したいと考えたのでした。

【オープン時】
最初のプロダクト「究極にシンプルにお茶を淹れる 透明急須」

2017年11月3日のオープンと同時に発表した茶器が、割れない「透明急須」です。

この商品は、まさにブランドの哲学を体現した商品で、発売から約1年でノンプロモーションで1万個以上は売れたと思います。もしかしたら、いま世界で一番売れている急須なのではないかとすら思っています(未確認)。


ここまでオーガニックで広がっていったのは、コンセプトを明確にし、捨てるべき部分をきっちり捨てたことにあると思います。哺乳瓶などに使用される特殊な耐熱樹脂を特許技術により極厚に成型することで、割れない・熱くない・重ねられるという機能的メリットを十分に追求しました。透明なので茶葉が開いていく様子も見ることができますし、取っ手をなくしているので省スペース。利き手を選ばないユニバーサルなデザインです。

一方で、一人分の容量しかないという点は、一度にたくさん淹れたい人のニーズにはマッチしていません。ところが、実際には夫婦で1個ずつ所有して自分の飲みたいお茶を淹れることができたり、飲食店での業務用の利用に適しているなど、かえって新しい利用価値が生まれていることもあるようです。


透明急須は、2018年度のグッドデザイン賞、ドイツのレッド・ドット・デザイン賞をダブルで受賞するなど、約1年に渡る企画開発の「産みの苦しみ」が癒える瞬間を味わうことができました。

【オープンから半年〜1年後】
食品を取り扱う難しさに直面。決意した「富国強兵」

オープン後半年ほどは、お茶のピーク時期にあたる冬から春にかけてでした。オープンからずっとランナーズハイな状態で外部に向けて攻めを強化していた私たちですが、食品を販売する事業者として絶対に避けては通れない問題にぶつかります。在庫問題です。

ご多分に漏れず、私たちも悪戦苦闘の日々が始まりました。シングルオリジンの煎茶を取り扱うと、茶葉だけでSKU(商品数)が150を超えてしまいます。その全てに異なる賞味期限があり、それらが店頭や倉庫、アッセンブリ中の製造ラインにまで点在している状態。すべてが同じように売れていくならまだしも、店頭で何の品種が選ばれるかは予想ができません。頭を抱えました。


当時、店頭で販売するスタッフ以外には生産管理スタッフは1名もいませんでした。すでに小さいながらオンラインストアを稼働し、三軒茶屋にハンドドリップ日本茶専門店「東京茶寮」を構えていたことから、3拠点の在庫に対して、需要予測と製造計画を立てなければなりません。すでに年間の茶葉買い付けはトン単位になっていて、とにかく血液を全体に滞りなく循環させないと品切れや過剰在庫を起こしてしまうマズイ状況でした。

返送されてきたダンボール。生産者たちの顔が見えるということ

そんな中、夏場を迎えます。昨年のことなので記憶に新しいですが、2018年の夏は記録的な猛暑でした。真夏に急須でお茶を淹れて飲む、なんて機会は圧倒的に少ないですよね。リーフのお茶の需要はグンと下がる時期です。水出しなどの冷茶は美味しくて健康効果も高いため人気がありますが、外出することすらも危険な暑さ。店舗はこういう影響をモロに受けてしまいます。


そして、在庫の把握や計画がままならない1年目の私たちは、明らかな過剰在庫に直面していました。製造をストップして在庫を縮小していきたいものの、夏は夏の商品提案があります。店頭スタッフとしても、商品ラインナップを変えずに何もできないでいることはもどかしい状況。そのようなジレンマを抱え、結果としては冬場に製造した商品の一部は夏を越すことになり、賞味期限切れのロスとなってしまう事態となりました。


正直相当参りました。自戒を込めて書きますが、生産者が魂を込めて、1年に一回きり収穫するのが私たちの一番茶です。生産者の顔や名前まで分かるし、産地にも行って樹々を見ていますし、信頼して期待してうちに預けてくれているわけなので、これは大変に申し訳ないことでした。店頭からオフィスに返送されてきたロス商品の入ったダンボール。そこに入った「シングルオリジン」の生産者情報が入ったパッケージ。これを見たときの感情は忘れられません。自分たちの責任というものを改めて認識する出来事でした。

それからすぐ「富国強兵」フェイズへと舵を切りました。売上のトップラインを伸ばしたい気持ちをぐっとこらえ、内部の強化に力を注ぐ時期が約1年ほど続きました。人員の採用、人事評価制度の検討、棚卸しのフローの見直し、在庫量に対するチェック・アラートなど、店舗運営には当然に必要な機能を一から作り込みました。この時期には、新規の出店や仕事のお声がけに関しては後ろ髪ひかれつつも、丁重に見送らせていただき、ひたすら内部強化に集中していました。店頭でお客様に日々接しているスタッフにとってはもどかしい時期でもあったと思います。

顧客体験におけるリアルの大事さ

それでも、お客様へのサポート対応が早くて喜びの声をいただくようになったり、大口の注文に欠品なく対応できるようになったりと、着実に手応えを感じ、やってきたことは間違っていなかったと思います。私たちの商品のように、価格として通常より高価な部類のものは、通常の物販よりも顧客満足度をあげるための間接的な投資を掛ける必要があると思います。会食での手土産や、大切な方への贈り物にお使いいただくシーンに対して応えられるブランドなのか。当時はいちいち振り返る間もなかったのですが、いまではそのことに対してもう少し体系立てて考えられていると思うので、今後ポリシーとして言語化して役立てていければと思います。

昨今、D2Cなどの潮流で話題となるSNSマーケティングは、新規のお客様へのアピールやリピーターの方との交流として重要ですが、実際にはリアルな場で顧客のブランド体験が起こります。そうした重要な場面で選んでいただけるための信頼を築いていくことが重要な指標だと思っています。そしてそれは結局のところ、スタッフの接客・人間力に尽きるのではないでしょうか。幸い、いまのチーム全体が非常に優秀なメンバーで、彼ら彼女らが継続して取り組んでくれていることにこの場を借りて日頃の感謝の意を表したいと思います。

【オープンから1年半後】
2019年、テクノロジーを活用した店舗体験を志向してジャンプ

冒頭で、煎茶堂東京はちいさな日本のプラットフォームと書きました。それは、私たちはあくまでも生産を行っている事業者ではなく、再現性のある仕組みによってお茶に貢献しようと考えているからです。

「TOKYO TEA JOURNAL」の 041ごこう 取材映像

一般的に流通している「お茶の中身」は、生産者もお客様もわからないようなブレンド状態、というのが当たり前でした。ブレンドという技術は素晴らしく、それ自体を否定しているわけではありません。ただ、トレーサビリティや透明性がないという点では、明確に課題があると考えています。お客様からしても「なぜこのお茶が美味しいか(美味しくないか)」といった指標がわからないので、商品を選ぶ知識も育まれません。そうなると、今度はいいものを作っている生産者も報われず、良いものを届けるインセンティブがないため、世の中に良いお茶が出回らなくなるという負のサイクルに陥っていました。

ワインやコーヒーを参考に、味・品種・産地・生産者・蒸し具合・焙煎具合が記載されたパッケージ


私は、コーヒーでも日本酒でも、自然と「自分の好みのタイプはこっちなんだな」という理解から踏み入れていました。焙煎度合いは深すぎないくらいで、コスタリカやエルサルバドルの豆が良かった、などの自分の指標を元にして、焙煎所や抽出方法を選び、たまに冒険して興味を広げていたのです。


そうしたお客様にとってためになる知識を丁寧に伝えていくこと。それがとても大事だと思っています。「生産者とお客様を、最適な形で出会わせる」というシンプルな原理に沿って、なるべく地域や思想・信条が偏らないように、お茶全体をフラットに見てご紹介する立ち位置を、スタッフの接客方針として据えています。


その考え方を余すことなく注入し、2年の取材期間をかけてリリースしたサービスが、観て飲むお茶の定期便「TOKYO TEA JOURNAL」です。

紙のタブロイド、映像、茶葉の3メディア同時体験

もう、これがめちゃくちゃ大変でした(笑)。2019年の前半の記憶はかなり飛んでいるのですが、それだけ魂を込めて制作にあたっていたということだと思います。リアルの場が大事だとしながらも、店舗だけで完結しては影響範囲がごく小さい規模にとどまってしまいます。


そこで私たちが考え出したのが、紙のタブロイドとオリジナル映像コンテンツを通して生産者の声を届け、その茶葉を実際に飲むという体験をセットで届けるということでした。(詳しくは、こちらのページをご覧ください。)

出張取材時の機材類


全国の山奥に散らばる茶農家を数十軒訪れ、写真・映像・音声・空撮・インタビューを収録してくるという無茶苦茶な企画です。やってみると、雨や雪も降るし、突風でマイクが使えない、電波が入らない山奥で生産者と電話が繋がらない、機材の電池や容量が足りないわ、ハプニングは書ききれないくらいあるわけです。それをせいぜい1人か2人で飛んでいってとんぼ返りしてくる。帰ってくると今度は編集という地獄のような(?)作業が待っている。それを月刊誌として発行する。なんていう鬼畜の所業でしょうか。

水道のない秘境の村。生産者とのやりとりで、辛さが吹き飛ぶ

映像よりキャプチャ。針のように撚られた美しい茶葉


そもそも自分たちがやろうとしていることなので、当然分かってやっているのですが、結構追い詰められるわけです。なのですが、そんな辛さも、生産者と会って話しているとどこかへ消え去っていくのです。それどころか、ものづくりの刺激を受けて背筋が伸び、奮起させてもらえることもあります。


生産者の方々の飾らない言葉、声のトーン。そして、お茶にロマンを感じてのめり込んでいる真摯な想い。自然と向き合っている生産者の方々の言葉の重みというのはものすごいものがあります。数え切れないほどの名言や名シーンに出会ったのですが、その中でも特に印象的で記憶に残っているエピソードを1つご紹介して、この振り返りを終えたいと思います。

映像よりキャプチャ。針のように撚られた美しい茶葉。


京都府南部の山の頂上に位置する村、「童仙房(どうせんぼう)」。ここは水道が通っておらず、生活用水は湧き出す井戸水を利用している秘境です。2019年の5月、かなやみどり生産者の柚木(ゆうき)さんの元へ訪れました。標高がとても高いというのに、強い日差しが照りつけて汗ばむような日で、ちょうど一番茶の収穫の時期でした。まさにお茶を揉んでいる時間だったので、柚木さんは工場に付きっきりになっています。


谷本「畑、見てきていいですか?」

柚木さん「昨日摘んだところですよ、どうぞ見てきてください」


工場から歩いて行ける裏の山にかなやみどりの茶畑があるので、歩いていきました。

これがそのときのかなやみどりの畑の写真です。「あれ?おかしいな」と思いました。

新芽が青々としており、まるでまだ摘んでないかのような茶園の状態です。

しかし、これが間違いなく摘んだあとの茶園です。

こんなことは、普通はあり得ません。まだもう一回お茶が刈れるほどの新芽が残っています。どういう畑の状態なのか、一瞬理解ができませんでした。


これはつまり、柚木さんは刈る高さをめちゃくちゃ上げて、新芽の一番柔らかい上の方の部分だけを刈り取ってうちのお茶を作ってくれていました。これは一体どれだけ上等なお茶になろうか・・・。この光景を見ただけでぐっと込み上げてくるものがありました。


そのあと、すぐに工場に戻って柚木さんにどういうことかお話を聞くと「谷本さんのとこに出すやつなんで、美味しいお茶作りたくて」―――。私たちはシングルオリジンの煎茶で正のサイクルを生み出したいと思ってやってきました。それが目の前で実を結び始めていました。言い表せないほど嬉しい出来事でした。生産者にスポットライトを当て、丁寧にお客様に届けるということをやってきた中で起きた胸を熱くするシーン。この経験は、私の中でとても大きな意味を持っています。

TOKYO TEA JOURNAL(私たちは略して「TTJ」と呼んでいます)は、お茶にちなんで今年の八十八夜にリリースし、創刊号は100名限定の会員募集をメールマガジン購読者向けに行い、1日経たずして募集枠が埋まる好スタートをきることができました。その後も堅調に毎月の利用者数を増やしています。


―――以上が、2周年の振り返りです。


とても長くなってしまったのですが、最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。もっとたくさんの書けていないこともあります。テクノロジーを活用した店舗体験についてのこととか。それはまた、今後お付き合いさせていただく中で、少しずつお伝えできればと思います。

私たちのチャレンジもまだ始まったばかりです。2周年はただの通過点に過ぎません。ぜひ、みなさまと一緒にお茶の未来を楽しんでゆければ幸いです。3年目の煎茶堂東京 も、どうぞよろしくお願いいたします!



(煎茶堂東京・谷本)





その他、生産者をインタビューした映像コンテンツはこちらからご覧ください。

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