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このじいさんはなお茶が好きやさけ。そりゃもう寝てる間もあらへんよった 「041 ごこう」藤田千代次さんインタビュー

2020年07月19日

by 煎茶堂東京編集部

初めて訪れる京都・宇治の二尾。そこにはなぜか懐かしく感じる風景が広がっていました。



ごぼうのような香ばしさと出汁のような旨味を感じる「041 ごこう」は、ここで育まれています。生産者の藤田千代次さんがどんな想いで茶を作っているのか、そんなお話を伺います。



当日、玄関口では千代次さんの奥さん「フジ尾」さんも一緒に出迎えてくれました。とても朗らかなお二人との時間をそのままお伝えしたくて藤田さんではなく、千代次さん、フジ尾ばあとお名前を表記させていただきます。



話し手:藤田千代次さん・藤田フジ尾さん 聞き手:谷本幹人

―――茶業始められたのはいつ頃ですか?

千代次さん:中学時代。親父手伝ってな。学校から帰ってきたらもう茶の機械洗うの待ってはんのやもん。機械ば洗わんなあかん、お茶は大変や。そやけども辞めるわけにいかんし。いまだにやってんやけど。何年続くか分からん。



フジ尾ばあ:これから先どこまで行くか知らんけどもな。できる限り動ける間はしたいな言うていますけどな。



千代次さん:自分の名前は千の代を次ぐと書いて千代次(ちよじ)。藤田千代次。もとのこの藤田いうのは死に絶えはったんや。亡くなりはったわけ。少し財産があったから、平尾家だった私をあとの後継人としたんや。小学2年生のぐらいの時かな?その頃に藤田になった。



なんでわしが後継人として藤田になったかというと私の祖母がここから、藤田から来てはったんやこれ。ほんで家継いでくれ、あとしてくれっちゅうことで遺言みたいなのが一言あって。今度は平尾の方が、長男が戦死したんや。わしの弟もおってんけど弟も亡くなってしもうて。いまはわしの次男坊がこの平尾の姓を継いで、わしは藤田で一緒にお茶をやってます。

―――(出して頂いたごこうの茶を飲みながら)このお茶は本当に旨味がすごいですね。

フジ尾ばあ:(息子が勤めている宇治の)消防が来はりますやん。そしたら旨い茶や旨い茶や言うてな。褒められたらちょっと持っていけちゅうわ。それと孫が野球で大阪桐蔭行っとんのや。寮におって、美味しいお茶が飲みたいって電話してくんねん。可愛そうに。それが正月帰ってきた。おじいちゃんのお茶、お米が美味しいて、帰ってものすごい言うよんねん。



千代次さん:やっぱり香気が違うんでね。なんとも言えん香りやね。昔はこの向こうに池尾(いけのお)っていうとこがあって。ここは二尾(にお)ですけどね。そこには喜撰法師(きせんほうし)さんのゆかりがあって、そのお茶をもって栄えた。



そこはもうだーっと両側茶園でしたわ。うちらの茶も池尾に持って行ってそっから出荷してはったやね。昔は茶壷いうて壺で運んだ。そこにも1つ置いてます。ここは醍醐寺の配下やけんね。山間部やけ、昔は年貢が払えんで、ちょっと待ってくれとか言ってたような、貧しい村やったらしいで。猪とかなんかが来て田んぼ荒らしたり。



でもお茶はどこでもちょっとしたとこで作ってはりましたわ。わしら茶揉んでても道通ってはる人が匂いが違うって言うてん。ええお茶の匂いがしてるなって言うてはるわ。わしらは、んな全然、分からん。当たり前のような風景と匂いで。



フジ尾ばあ:池尾いうとこも、もう昔から名通ってきはったお茶やけど、もう人が高齢になってしもうて。山で便利の悪いとこさけみな出てしまいますねん。空き家になってしもうて。みなもうやめはった。この1軒だけですねん。2年にいっぺんは、宇治市の市長さんやら農協のお偉いさんやら来はんねん。もうここらで茶を機械でやってんのもうちだけですねん。

―――それでもやり続けられてるっていうのは?

フジ尾ばあ:このじいさんはなお茶が好きやさけ。お茶の時期になったらもう忙しい!ほんまに。田んぼもしますへんで。勤め持ってな。百姓やって。勤め持って田から茶からそりゃもう寝てる間あらへんよった。この家もお父さんが建てはりましてん。すごいねんこの人。真面目なやしな。もう年が年やさけね。80超えましたわ。

千代次さん:わしがいまのお茶、品種のごこうとか作ったのは、もともと雑種が植わってて、雑種やけん葉が大きい小さいあって、揉みあげたかて綺麗に見えへんね。



なんぼこうやったかて、綺麗に見えへんねん。大きい葉や小さい葉があったけぇ、問屋に持っていったかて、『こんな茶』っち言われて。こんなやあかんと思って、思い切った。全部自分でユンボで耕しておこして。やっと、というぐらいに芽が出てきて、もう10年はなるわな。



フジ尾ばあ:私がここへ嫁に来てからもう全部を台刈りして。そしてごこうやとかいう、品種を植えた。

―――このへんの地域は宇治茶?

千代次さん:ここらがもう宇治茶の製造区だったと思うけど。



ごこうはやっぱし収穫日がちょっと遅い品種や。やぶきたは早いねん。田植えの時期と重なるさけお茶がちょっと遅れるやん。どうしても葉がおおきなんねん。ごこうは10日以上は遅い。そしたら丁度ええねん。あんまり慌ててせんでもええ。



去年の収穫が5月の20日頃やね。生葉で250キロぐらいか。そんだけしようと思ったら朝までかかるわ。今やったらだいたい夜10時か11時頃で作業が終わるさけに。朝の11時頃までに刈って、それから機械入れて。夜にかけて。息子もその日は刈ってからすぐに蒸すの手伝ってくれるさけね。

―――本当大変ですね。

千代次さん:いっぺん日本一とりたいな思って。農林水産大臣賞貰いたいなと。それで死にたい。このへんでなんとかして、そいなお茶を作ろうと。出たことがないさけんね。農林大臣賞やとか貰う人はもうなんか決まってるやん。そいな人に流れてしまうさけ、なんとかその人達に勝ちたい。

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このインタビューは、「観て飲む」お茶の定期便 "TOKYO TEA JOURNAL"に掲載されたものです。毎月お茶にまつわるお話と、2種類の茶葉をセットでお届け中。

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