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お茶って年に1回っきりしか採れないんだよ。1回、1回が真剣勝負ですよね 「006 ゆたかみどり 知覧」製茶工房ちらみ 西野千洋さんインタビュー

2020年07月19日

by 煎茶堂東京編集部

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鹿児島県の知覧で誕生した、超強化焙煎による香ばしい「ゆたかみどり 知覧」。

他と違うことにこだわる「製茶工房ちらみ」の西野さんは、栽培方法だけに留まらずお茶を知ってもらうためのアイディアも大切にしています。今に至るまでの背景と、当時不況のお茶業界に新規参入したときの覚悟をお伺いしました。

話し手:株式会社 製茶工房ちらみ 代表取締役 西野千洋さん 聞き手:谷本幹人



―――会社の立ち上がりについてお伺いできますか?
うちは今、農家8人でやっています。その前は私も兄弟でやってたんです。そこが手狭になって、もっと大きい経営体でやれたらなと兄弟にも声かけたんですけど、兄は自分でやるということで、別な方と3名でこの工場を設立しました。

―――じゃあ以前は個別に工場をやられていたのですね。
そうですね。それぞれの経営をやってた3人が集まって新たに始めた工場です。私、茶農家としては1代目なんですよ。うちの親は県の茶業試験場っていうところで技術員やってて、その製造のすごいプロというか、だから県内の茶農家さんで私よりも年上の方は“ああお父さんに教わったよ”って方が多いんですよ。

初対面の方でも”えっ知覧の西野さんって試験場にいたよね”っていう感じで、案外皆さん知ってて。それで父が退職後に茶工場始めたんですよ。私が高校卒業して21歳の頃かな、その工場を兄弟でやって、各自面積も増えてきて。



―――手狭になってきたんですね。
はい。ほんとはもうちょっとみんなで大きな形態でやれたらなと思ってたんですけど。今まで、一国一城の主じゃないけれど個人個人で成り立ってきたものが今後、人手不足とかを考えると成り立たないなと思って。こういう設備もみんなですると、それなりのものも作れるし、個人ではできない形ができるなって考えました。



―――ちらみさんの創業が10年ほど前ですか?
2011年から創業ですね。一つの新工場・新形態としてできたのは、南九州市でもうちが最後なんですよ。ちょうど私が始める頃…平成20年ってすごくお茶が悪くて。

“本当にするの?”って皆に聞かれたんです。“辞めるって言ってもいいんだよ”とまで言われたんだけど、 いや… うーん、今更なんかそれもしゃくだしなって。かといって何ができるっていう自信もなかったんですけど。



―――そんな状況の中始める勇気って何だったんでしょう?
ちょうどそのとき、息子が研修に行っていた静岡の農家さんの研修会に参加させてもらったのが良かったかなと思います。全国からいろんな研修生が集まってきたんですが、なんていうか…その子たちの意識がすごく高かったもんで、ここでなにやってんだ!と思ってある意味すごくショックを受けて。



―――刺激を受けたと。
もうすごい刺激を受けましたね。やっぱりなんていうか、すぐ言い訳しちゃうじゃないですか。なにがダメだからできないんだって。ダメなほうを肯定しがちだと思うんだけど、その若い子たちがすごくって。みんなそれぞれの想いを持ってたので、弱音言ってたって良くないなと思って。



―――ものすごく純粋な想い。良い体験でしたね。
だからほんと、タイミングですよね。いい機会にいい人に出会えて。…私5年ぐらい、富士山にも登ってたんですよ。ちょうど会社立ち上げて、まず自分の会社の名前知ってもらうために、鹿児島のお茶屋さん20数社に、お茶を封筒につめて背負って登って、富士山頂の郵便ポストから出すんですよ。

―――えー!消印が富士山の。面白い。
最初の1年目ってほとんど反応なかったんです。2、3年目の頃になったら、茶市場でこの制服の名前見て“あれ、ちらみさんってお茶送ってくれる方ですよね“って声かけてくれるようになって。そうするとお茶も見てもらえるようになりました。きっかけになったんだって。



―――そんな風に反応が変わっていくんですね。
うちの社員とか息子みんなで、毎年交代交代で登ってます。もう今年10年目で、自分も還暦になったので、還暦登山ってことで、一生懸命歩きを練習してて。今はいろんなお世話になったお客さんであったりとか、そういう方に出せたらいいなって計画してるところです。



―――そうしたアイデアはどこから生まれたんですか?
そういう、ヒントだったりをくれたのが、友人であったりとか、その時出会った方なんですよ。だから私ってすごく恵まれてて、そういう方とすごくいいタイミングで出会えてる。で、今こうやってやれてますね。

―――素晴らしいですね。お茶づくりのこだわりについてもお聞かせいただけますか?
うちは規模的にもあまり大きいほうでないし、まだ10年っていうこの南九州市で一番新しい企業、後発だったので違うものじゃないと埋もれてしまうなっていうことで色々考えてやってます。

西野さんに案内していただいたゆたかみどりの茶園。圧巻の景色!


―――例えばどういった栽培方法をされてるんでしょうか?
二番茶までしか摘まないんですよ。南薩(なんさつ)ではほとんど三番茶・四番茶まで摘むんですけど、二番茶までで終えて、そのあと切り戻して樹勢を回復して次の一番茶・二番茶でいいものが採れるようにってやっています。それが今は全域に広がってますね。より早くからそういうのに取り組んでやってきて、今があるっていう感じですね。



―――質のところに力を入れるという。
ですね。市場に出したときに問屋さんたちがこうパーッと見ていきながら、“んっ”て2度見するお茶を作りたいってずっと思ってて、それをするためにはどうしたらいいのかなって。

逆に、奥手の産地だから他の産地では旬が過ぎててもまだ旬が残ってるっていう。“あっ、今の時期にこんないいお茶あるの”っていうのをつくりたくって、今は系列農家みんなで協力してやってるとこですね。



―――いいものつくりたいって思いがすごく感じられますね…。「ゆたかみどり」なんですけど、焙煎が、ほうじ茶に近いような強い火が入りますよね。
やっぱり「ゆたかみどり」っていう品種ならではですよね。こう焙煎を強くすることで「ゆたかみどり」独特の香りであったり、うまみが引き出されて深みのある味であったりとか。他の「やぶきた」だったらそこまで火入れちゃったら、焦げてるよねって思うところでもゆたかの香り・うまみが引き出されるんですよね。



―――知覧茶は、この土地や知覧茶を知らない人にお伝えする時なんてお伝えしたらいいんですかね。
そう、ここ難しいですよね。こういう産地なんですよっていう説明ってなかなか難しいと思うんですよ。私はお茶って、工場単位のその人の顔だと思ってるんですよ。知覧って南北に長い町で海沿いから山手まであるので、いろんなバリエーションのお茶が揃う産地であると思います。



―――確かにそうですよね。南北に長いっていうのもそうですし、工場によって、生産者によって、その年によっても違うのを感じます。
もう絶対同じものってできないと思ってるんですよ。だからいつも私若い子たちに言うのが、まだ30回しか採ってなくって、この畑のお茶って年に1回っきりしか採れないんだよって。

もう…“しまった、もう1回やり直そう”ってことできなくって1回、1回が真剣勝負ですよね。ほんとにそういう感覚でやらないと、1日違うと、お茶って全然違ってくるし、そういう面ではほんと1日、1日がすごく楽しいっていうか、こうしたらどうなるんだろう、と思いながらやっていくと、まだやることっていっぱいあるよねって。

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このインタビューは、「観て飲む」お茶の定期便 "TOKYO TEA JOURNAL"に掲載されたものです。毎月お茶にまつわるお話と、2種類の茶葉をセットでお届け中。

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