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黄檗宗の僧「売茶翁」とは?煎茶道のルーツとなった人物を通して煎茶をさらに知る

2021年04月30日

by 煎茶堂東京編集部

皆さんは売茶翁(ばいさおう)という人物をご存じでしょうか。明出身の僧・隠元(いんげん)を開祖とする黄檗宗(おうばくしゅう)の僧だった売茶翁は煎茶道の祖とされ、日本における煎茶の地位を確立した人物の一人でもあります。

今回は、売茶翁という人物を通して、日本における煎茶の歴史や煎茶道のなりたちについて解説していきます。

「売茶翁」こと高遊外の生涯と黄檗宗

冒頭から記している売茶翁という呼び名はあくまでもニックネーム。彼の名は高遊外(こうゆうがい)と言います。江戸時代前期の1675年佐賀県に生まれ、13歳の時に黄檗宗の総本山である宇治の萬福寺(まんぷくじ)を訪れました。

黄檗宗は1654年に明から来日した僧・隠元によって開祖された、日本で現在ポピュラーな仏教である鎌倉六宗(浄土宗・浄土真宗・時宗・日蓮宗・臨済宗・曹洞宗)に比べて新しい宗派。

中国の臨済宗をルーツとする禅宗の一つで、日本における他の禅宗(臨済宗・曹洞宗)と異なり、中国的な特色を多く残しています。


隠元は来日する際、黄檗宗とともに多くの中国文化を持ち込みました。代表的なものが彼の名が付いたインゲン豆と、中国で一般的だった釜炒り茶だったのです。

釜炒り茶を始めとする中国文化を取り入れた黄檗宗の僧になった高遊外は、全国各地を周って修行を重ねる中、33歳の時に長崎で煎茶の知識を習得します。長崎には華僑たちが築いた「長崎三福寺」と呼ばれる唐寺があり、黄檗宗における中国と日本の橋渡し的な役割を果たす地でした。

煎茶を学んだ高遊外は、50歳後半になって煎茶を売り歩き始めます。茶を売り歩く翁(おきな)ということから「売茶翁」と呼ばれるようになったのですね。彼の売り方は独特で「価格は客の気持ち次第、無料でもOK」だったそう。このことが京の市中に煎茶を広めることになったというわけです。

還暦を過ぎた高遊外は、京都東山に通仙亭(つうせんてい)という茶亭を開きます。晩年は、通仙亭で禅を説きつつ、人々に煎茶や茶器を売って過ごしました。

売茶翁が文人に愛された理由

売茶翁こと高遊外は煎茶を売り歩くことで人々に煎茶を広めただけでなく、画家の伊藤若冲(じゃくちゅう)など、江戸時代を代表する文人墨客たちに深く愛されたことでも知られます。

千利休によって大成された茶の湯に見られる通り、江戸時代以前の日本茶と言えば抹茶が主役。本来は禅と結びついて精神世界を形作るものでしたが、戦国武将たちによって権力と結び付けられるようになり、江戸時代には固定化が目立つようになっていました。


形式化してしまった抹茶の世界に批判的な目を向けたのが、感度の高い文人たちだったのです。彼らは、中国唐の時代に活躍した詩人・盧仝(ろどう)が遺した清風の茶というイメージを理想としていました。

清風の茶とは盧仝の詠んだ詩の中の一節から来た言葉で、お茶の煎を重ねていくうちに、心の中に清風が吹き抜けたような清らかで自然な状態になれることを表現しています。

文人たちは形式化してしまった抹茶の世界ではなく、売茶翁の供する澄んだ煎茶と禅の教えに清風の世界を思い描き、煎茶の世界に浸っていきました。こうして売茶翁の説く煎茶の世界が、多くの文人墨客に愛されるようになったのです。

売茶翁の精神を受け継いだ煎茶道

売茶翁の死後も後世の人々によって精神は受け継がれ、幕府に対する不満や将来への不安が増した幕末にかけて、さらに多くの人から支持を受けるようになりました。売茶翁が説いた煎茶と禅の世界が時代とともに発展していき、今日の煎茶道へと受け継がれています。

煎茶道は隠元や売茶翁にルーツを持つことから、日本煎茶道連盟の本部は萬福寺に置かれており、30余りある流派が一堂に会する「全国煎茶道大会」も毎年萬福寺で開催されているのです。

庶民にお茶を広めた売茶翁の精神を受け継いだ煎茶道は、肩肘張りすぎない日常のお茶の作法。流派によって作法や使用する茶器に違いはあるものの、形式を目的化するのではなく、煎茶を美味しく楽しく飲むための手段として形式があるというスタンスは共通のものです。


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澄んだ煎茶に清風を感じて

黄檗宗の僧だった「売茶翁」こと高遊外は、価格は客次第という独自の方法で煎茶を庶民に広めました。無料でもいいという思い切った売り方の裏には、身分や貧富に関係なく煎茶の素晴らしさや精神世界の奥深さを知ってほしい、という高遊外の強い思いがありました。

現在、誰もが煎茶を楽しむことができるのも高遊外の存在があったからこそなのかもしれませんね。たまには、澄んだ煎茶の中に清風を思い描きながら、豊かな香りと風味の奥に広がる精神世界をゆったり感じてみてはいかがでしょうか。