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作り手のことば「器は料理だけでなく、作った人の気持ちまで盛るもの」陶芸家・千田稚子さんインタビュー

2024年06月14日

by 煎茶堂東京編集部

岡山市の自宅兼工房で、食事を引き立たせる器を丹精込めて制作する陶芸家の千田稚子(せんだ・わかこ)さん。食べるのが大好きだと語る千田さんは、テレビ業界から陶芸家へと転身するという異色の経歴の持ち主でもあります。

今回、煎茶堂東京で千田さんの器をお取り扱いするにあたり、千田さんのお人柄や器づくりに対する想いなどを伺いました。

千田さん、今回はよろしくお願いします。まずは、簡単なプロフィールを教えていただけますか。

よろしくお願いします。1971年生まれで、現在は岡山市の自宅兼工房で制作活動しています。地元の岡山県を中心に、近県や東京、近年では台湾でも展示会をやらせてもらっていますね。

個人的に「食べること」が大好きで、私のSNSでは焼き物のことより、食べ物に関することをメインに記録しています(笑)。

千田さんは、以前テレビ業界にいらっしゃったと伺いました。器を作るようになったきっかけは何だったんですか?

子どもの頃から料理と器に興味があって、手を動かすことが好きだったんです。父が焼き物や絵画好きだったこともあって、家族旅行は信楽(しがらき)や砥部(とべ)などの窯元巡りか、寺社・美術館巡りって感じでしたね。

そんなこともあって、大学では中学校・高校の美術工芸の教員養成課程に在籍していて。授業の中で初めて陶芸に触れました。デザイン専攻だったんですけど、器や家具みたいな実用品を作れるのがうれしかったので、陶芸とか木工とか工芸分野のカリキュラムばかり受講していました。

その後、テレビの番組制作を手がける会社に就職して、料理のコーナーを担当していました。そこでも料理と器のことをよく考えていて…。

退職後、当時の家族の事情もあって「家でできる仕事」かつ「手に職をつけられる仕事」に就きたいって考えたときに、器を作りたい!という気持ちに火がついたように思いますね。

千田さんは、旦那さまがテレビカメラマンでいらっしゃいますよね。旦那さまから受ける刺激で、器づくりに活きていることがあればぜひ教えてください。

旦那さんはテレビカメラマンの割にのんびりしていて。グイグイいかずに待つスタイルで、刺激よりも癒しにウエイトがあるタイプなんです。ご年配の方や小さなお子さん、動物の表情、自然の美しさなんかをちゃんと撮れる人。根っこのやさしい人なんでしょうね。

…身内の私にはまあまあブラックですけど(笑)。

旦那さんの撮る映像は、決して派手なものではないけど、ジワっと心に染み入る感じがいいなと。私の作る器も同じように、おおらかで静かで派手さこそないけど、使ってみたら「いいな」としみじみ感じられるものにしたいな、といつも思っています。

それでは、千田さんご自身のテレビ業界での学びや経験で、器づくりに活きていることはありますか?

チームで仕事をすることの楽しさと喜び、ですかね。

放送の業界は分業が基本なので、1人だけの力で企画からオンエアまで完結するのは無理です。しかも、一度やった企画を、まったく同じように繰り返すこともありませんでした。

当時は業界のスピード感に振り回されてましたけど、時間がたった今振り返って、チームで仕事をするとかけ算になることがたくさんあったし、楽しかったなと感じることがあります。

反対に器づくりは個人で向き合うものですが、グループ展やコラボレーションのように、1人ではできない仕事への取り組み方もあります。あと、すべての関わる人がなるべく気持ちよく仕事できる方法をさがすという根本は放送業界と同じです。

器を使ってくれる人のことを想い、一緒に仕事してくれる人のことを想い…というのが、作品づくりへのモチベーションをより高めてくれていると日々感じますね。

冒頭でも「食べることが大好き」と話されていましたが、食べ物にとって、器とはどのような存在だと思いますか?

ありきたりかもしれませんが、食材にとって、料理にとって、器はステージだと実感しています。器は、料理だけでなく、その料理を作った人の気持ちまで盛るものだと感じているんです。

器を見て「何を作ろうか」「どんな風に盛ろうか」「誰と一緒に食べようか」という想像が膨らむと、器を使う人の食への意識は上向く。そうやって器に盛られた料理は、味覚だけでなく視覚でも、食べる人に美味しく感じさせることができるんだと思います。

千田さんは「いっぷく」という言葉を大切にされていますよね。お茶を飲んで「いっぷく」する瞬間は、千田さんにとってどんな意味を持つひとときなのでしょうか?

うーん…忙しいときや行き詰まっているときに自分を「よしよし」となだめる時間でもあるし、集中モードに入ろうとしている自分を励ます時間でもあるし…。あと、ひと仕事終わったときには、頑張った心身をリラックスさせてあげる時間でもありますね。

「いっぷくしたいな」と思ったら、身体が深呼吸を求めているんだなと判断して、いそいそとお湯を沸かします。

「いっぷく」の良いところは、時間がそんなに長くないこと。ダラダラと休まず、スッと背筋を伸ばして、それまでの流れの中にまた戻っていけるのが「いっぷく」なんです。

目の前の人が疲れていたり、根を詰めていたりするときも「お茶入れるからいっぷくしよう」と声をかける。これは「休んだ方がいいよ」「無理しないで」といった言葉とは少し違って、その人のやる気を邪魔せず、優しく寄り添う感じがするのが素敵だなと思ってます。

器づくりの話に移りますが、器を作る工程の中で、千田さんが好きな工程と理由を教えていただけますか。

ろくろで水引きしたものを削るときです。頭の中や紙に描いてイメージしていた形が、実際に立体として浮かび上がってくるのが好きですね。

ポットや茶壺はパーツが多く、組み立ての工程も多くなります。いざ完成しても水切れが良くないなどリスクも多いアイテムなんですが、なぜか作るのが好きなんですよね…。時間に追われているときにポットを作るのは、なかなか苦しいのも事実なんですけど。

作品を作るときのインプットは何でしょうか?

料理をして、作ってみたかった新しいメニューを試すことと、旅をして、その先で見たことのないものを実際に目で見て、食べたことのないものを実際に味わうこと。

あと、好きな画集をめくること。「この絵の中にあるとしたらこんな器…」なんて妄想したり、絵ごとの風合いやマチエール(絵肌)を観察したりしています。

千田さんが考える、器を作るうえで一番大事なことを教えてください。

「余白」です。

私の場合、器ができるきっかけは「この料理をこんな風に盛りたい」という具体的なイメージです。料理を盛ったときに器の上にできる余白や、器の周りにできる空間、空間における佇まいなど、実際に使っている状況をイメージしながら制作することになります。

飽きずに使えて、他のものとなじみやすいシンプルな器を作りたいので、使われているところをイメージするのが大切。そのイメージが、デザインしすぎず余白を持たせるという、抑制にもつながっているんだと思います。

最後に、今後挑戦してみたいことは何かありますか?

普段、定番ものを繰り返し制作することが多いので、旅先で出会った食にインスパイアされた器を作ってみたいなと思いますね。あと、1点ものや限定ものなんかも作ってみたいですし、他の素材と組み合わせて茶箱も作ってみたいです。

千田稚子さんの作品

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