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作り手のことば「木目を探るのは、漁師が潮目を読むような感覚」木工作家・水野悠祐さんインタビュー

2024年03月15日

by 煎茶堂東京編集部

手彫りで器を中心に製作されている、木工作家の水野悠祐さん。水野さんの工房は、日本茶の基礎が築かれた歴史と伝統の茶産地・京都府宇治の山中にあります。

今回、煎茶堂東京で水野さんの作品をお取り扱いするにあたり、水野さんのお人柄や作品や木工に対する想いなどを伺いました。

水野さん、今回はよろしくお願いします。はじめに簡単なプロフィールを教えていただけますか。

よろしくお願いします。私はもともと東京出身で、大学卒業後は岐阜の家具工場に勤務していました。その後、京都に移住したんですが、当初は大工やパン職人として働いていました。それから木工に携わるようになり、現在の活動にいたっています。

いろいろな経験をされて木工にたどり着いたのですね。器を作ることになったのは、どういったきっかけがあったんですか?

食文化への興味と、独立心でしょうかね。京都に移住後はパン職人として働いた時期もありましたし、もともと食への興味は強かったんです。そこに「自分自身の手で何かを生み出したい」という想いが重なって、木工にたどり着いたんだと思います。

作品づくりにはさまざま工程があると思いますが、水野さんが好きなのはどの工程なんですか?

自分の手で材木を削る工程は、飽きが来なくて好きですね。はじめのうちは、逆目(さかめ:木目に逆らって削ること、ささくれや欠けが起きやすくなる)が出たり、刃の運びが重かったりして、正直「厄介なことをはじめてしまったな」と思っていました(笑)。

自然で育った材木には個体差があるので、削るべき方法や削りに対する抵抗が材木ごとに異なります。だから、一つひとつの材の性格を確認しながら、材の特徴に合わせて削り出していく必要があるんです。

なかなか作業が進まないもどかしさはありますが、単調な単純作業にならないところに救われている気もしています。

水野さんの作品を拝見していると、彫りの深さや模様が作品によって異なり、樹木の息吹やダイナミックさを感じられます。水野さんの考える「機械ではなく手で彫るからこそ表現できること」とはどのようなものでしょうか?

ノミで斫(はつ)ることによる、独特の手触りや光の当たり方によって変化する風合いですかね。

以前、あるアーケード商店街の脇道を少し入ったところにあるブックカフェで、ひたすら海面を写した写真集を眺めていたんです。写真を眺めながら「どうにか海水面のような…規則的なようでいて、混ざり合うような表現ができないだろうか」と思い、斫り加工を試みてきました。

材をノミで斫るには、材ごとの木目の特徴を把握する必要があります。木目を探る感覚は、海に出た漁師さんが潮目を読むのと近い感覚があるのでは…と、勝手に想像しています。

今回、紹介してもらう作品にも斫り加工が施されているので、海水面のような表現や風合いを感じていただけたら嬉しいですね。

木工では「素材の樹種」「彫りの深さ・粗さ/細やかさ」「仕上げの塗装」が作品に違いをもたらす要素かと思います。水野さんは作品を作るとき、どのような考えや基準で各要素を組み合わせているんでしょうか?
また、他に作品の表情を決める要素があれば教えていただきたいです。

素材の樹種は、小ぶりなものか大ぶりなものかで選び方が変わります。小ぶりなものであれば木目が細かく、なるべく比重の重たいものを選ぶようにしています。反対に、大ぶりなものは木目が粗く、比重の軽いものを選ぶといった感じですね。

彫りの深さについては、組み合わせる道具とのバランスや用途によって彫り分けています。場合によっては、食器として使いやすいかどうかも考慮して判断することもありますよ。

彫りの粗さ/細やかさという点では、素材によってどちらで仕上げられるかによって変わってくるのかなと思います。

素材によって荒加工で仕上がるものもあれば、丁寧に薄く削らないと仕上がらないものもあるんです。素材と削りの粗さの組み合わせが、削り仕上げの作品の表情を大きく決める要素になるのかな、と。

仕上げの塗装に関しては、表面に塗膜ができない程度に漆を塗って仕上げています。塗装しても木地の感触が残っているので、手になじみやすく使いやすいんじゃないかと思います。

水野さんの工房はお茶どころとして名高い、宇治にありますよね。ご自身でも正面の茶畑で農作業をしたり、手揉み茶づくりに挑戦されたりしているようですが、お茶づくりが作品づくりに影響を与えていることは何かありますか?

作品づくりに直接影響しているのかはわからないですが、古くからの人の営みが感じられるこの地で、製作活動に携われていることにありがたさを感じる場面はありますね。

工房のある宇治の池尾地区というところは、かつて茶葉の生産でにぎわう場所でした。今では、地元の人が飲む分だけの煎茶を作っているのですが、私もときどき手伝いをしています。

個人的に、仕事の合間に挑戦しているのが手揉み茶づくりです。茶玉が1つできる程度の茶葉を摘んで、発酵寄りのお茶づくりにチャレンジしていますよ。

作品づくりにつながるインプットは何かありますか?

街なかを歩いていると、新旧入り混じった人や物に出会えます。そうした出会いが作品づくりに生きていると思いますね。

水野さんが考える、器を作る上で一番大事なことは何でしょうか?

うーん…鮮度ですかね。「今、着手するタイミングが来た!」と感じたら、その余韻が残っているうちに作品づくりに着手したいです。

最後に、水野さんが今後挑戦してみたいことはありますか?

今は器づくりに力を注いでいるところなので、特段挑戦してみたいことというのはないかもしれません。作品づくりを通して、これから探していきたいですね。

水野悠祐さんの作品

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