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作り手のことば「茶器の素材・形・機能は行き着いた。今後の課題は哲学や遊び」陶芸家・村上雄一さんインタビュー

2022年07月15日

by 神まどか

煎茶堂東京・東京茶寮/デザイナー 青森県生まれ。最近の趣味は中国茶と茶道具収集です。

岐阜県・土岐市で作陶する村上雄一(むらかみ・ゆういち)さん。今回、煎茶堂東京では、「わたしの茶道具」でも紹介したことのある、お茶の時間にぜひお迎えしてほしいカップのお取り扱いが実現しました。

これまでに数多くの茶器を生み出してきた村上さん。村上さんにとって、茶器とは、お茶とは? それぞれのルーツを辿ってきたからこそ見えたものがある。「美味しく淹れられる茶器の素材と形と機能は行き着いた」と話す村上さんの茶器づくりについて伺いました。

村上さん、今回はよろしくお願いします。まず、プロフィールを教えていただけますか?

よろしくお願いします。私は東京生まれなのですが、沖縄へ旅をした時に読谷村やちむんの山田真萬さんに出会って、そこで5年間勤務しました。やちむんの里の登り窯を焚いているうちに、こんな楽しいことで生活できたら最高!と思ったんですよね(笑)。

その後に本格的に器の知識を習得したくて、「多治見市陶磁器意匠研究所」で2年間勉強したのですが、その時に磁土と出会って。

卒業後、土岐市下石町の「カネコ小兵製陶所」で4年勤務して、独立して下石町に窯を構えました。

陶芸家になられたのは、沖縄への旅行がきっかけだったのですね。

はい、1年間歩いて旅していた途中に出会って、そこから今に繋がっています。

ただ、イショケン(多治見市陶磁器意匠研究所)で学んで2年生の時に磁土と出会ってから、やちむんで染み込んでいた「民藝」に囚われることなく、私らしい制作ができるようになったと思います。

中でもやはり大きかったのは卒展ですね。磁器のオブジェ、土物のオブジェを作りきった時に、素材に耳を傾けることができるようになりました。

どういうことかというと、当たり前ですが見た目の美しさだけを追求してもダメで、磁土だからこそできること、土だからできること、電気窯、ガス窯、薪窯だからできること、そういったこと全てが揃った時に良いものが生まれます。

陶芸において大切なことを、イショケン時代に気付けたことが今の私の制作の軸になっていると思います。

村上さんがたどってきた陶芸の道筋が面白いです。現在の作品は茶器が主力であると感じますが、村上さんのお茶との出会いはどのようなものだったのでしょうか?

茶器に関しては、イショケンの卒展でポットで賞を取った時から「あ、茶器を作るのが好きだな」と気付きました。

元々紅茶が好きだったので、自分でティーポットを作れるなんて、私にとってはこれ以上ない最高なことです。

それまでは紅茶向きの大きめなポットやカップを作っていたのですが、ある時、ギャラリー「季の雲」の中村さんから、中国茶器を作ってみないかと誘われて作り始めたら、課題がつねに生まれてきて、それを一歩ずつ解決することが大変でした。

でも、そのおかげで確実に実力を上げていけたと思いますし、自信にも繋がりました。中国茶の世界は懐が深く、自由度が高いので「あんな技法も試せるかも」「あんな焼き方してもいいのではないか」とアイデアがどんどん湧いてきて楽しかったですね。

中国茶器を作るようになってからは中国へ行く機会が増えて、重慶、上海、北京、洛陽、福州、景徳鎮などで刺激を得て……やっぱり中国は偉大だと思いました。

足りていないところをカバーするためには、工夫して乗り越えるしかない。その工夫は自分自身で生み出さなければならない。そういう風に価値観が変わっていきました。

そして中国茶を学んだら、煎茶、コーヒー、紅茶の良さにも気付くようになりました。

村上雄一さんの「茶風景」
一つの面白さがわかると根を張るように他のものの面白さに気づくことができますよね。村上さんが茶器を作る上で、大事にしたい部分やこだわりのある部分はありますか?

茶杯の中でも、今回取り扱っていただく「ティーボウル」のサイズ感は自分でも絶妙だと思っています。ハンドルが無い心地よさと、大きすぎず小さすぎないサイズが日常によく馴染むんです。しかも重ねられるので、私の家では常に食器棚の最前列にいます。

美味しく淹れられる茶器の素材と形と機能は行き着いたと思っていて、これからの課題は哲学だったり遊びの要素だと思っています。

村上さん的、美味しく淹れられる茶器の「素材」「形」「機能」、ぜひ知りたいです。

そうですね……。お茶の歴史の中で、「磁器」と「紫砂(しさ)」は茶人に愛されてきたものの代表です。そんなはるか昔のものが、今の時代まで愛されている。クラシックミュージック然り、ポットの形状然り、ずっと残ってきたそれなりの理由があると思います。

その理由はただの流行りである時もありますが、茶器を繰り返し作っていて、やはり意味があってその形、素材、機能が残っている。だから私も粉引きの茶壺を作ったことがありますがすぐにやめて、今では磁器と朱泥をメインに制作するようになりました。

日本は陶器を愛でる文化がありますが、陶器は残念ながら質の高い茶葉とは相性が悪い。世界の陶磁器の歴史の中で陶器は下手物(ゲテモノ)なんです。

磁器を作るまでの練習台として陶器を作っていたり、磁器土が取れないから磁器土に似せて白い化粧土をかけてごまかしたりします。

しかし、日本ではそんな下手物を愛する千利休や民藝運動など、陶芸愛好文化が湧き起こったおかげで、現在の日本人の広く深いところまで浸透していますよね。それは素晴らしいことで、日本の文化レベルの高さを象徴していると思います。

お茶もそうですが、多くのものが中国をルーツにしています。村上さんにとってお茶はどういったものでしょうか?

お茶は何より楽しむものだと思います。お茶のことを考えている時が1番リラックスしている。知っていくと自分がよく見えてくると思います。

淹れるときの心境など、手順が決まっているからこそ「ブレ」が分かりやすいということですね。村上さんが今後取り組みたいことはありますか?

色々やりたいことが溜まっていて消化できませんが……焦らず自分のペースで作っていきます。新しいことを作り続けることは容易ではなく精神的にもきついので、アシスタントの力も借りてゆっくりやっていきたいですね。

みんなで丼や鉢など同じ形の食器をたくさん作ることも息抜きになるんですよ。農作業している時のような一体感が楽しいんです(笑)。

そして、自宅の裏山を開拓したので2〜3年計画で薪窯を作ろうと思っています。今は、磁器はガス窯の還元焼成1300℃で焼成していて、耐火土瓶や朱泥は電気窯の酸化焼成を採用しているのですが、薪窯を作ったら「灰被り」をしてみたいですね。

村上さんの灰被り、どうなるのか全く想像がつかなくて楽しみです!ありがとうございました。
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