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キッチンはわたしの城。春の山菜とふるさとの記憶を辿る時間

2020年04月23日

by 煎茶堂東京編集部

こんにちは。東京茶寮・店長の井原です。

今年も春がやってきましたね。新しい生活を始めた人も、少しは慣れてきた頃でしょうか。世間は今、目まぐるしい状況にあって、こころは少し窮屈さを感じているかもしれません。でもそんな時だからこそ、自分が本当に大切にしているものが見えたりもします。

自宅でのんびりテレビを見たり本を読んだりすることもわたしの癒やしの時間ですが、それと同じぐらい、わたしはキッチンで過ごす時間を大切にしているんです。食事のためだけにご飯を作るのではなく、旬の食材で季節を感じたり、お茶やお酒など愛する嗜好品との組み合わせを楽しんだり。



毎年わたしが春になると作るのは、山菜を使った料理。思い返せば、山菜を食べるようになったのは、田舎のおじいちゃんの元を訪ねていた小学生の頃から—。当時の記憶を辿りながら作る料理は、いつもとはまた少し違った特別な時間となるのです。

今回は、そんなわたしの故郷の思い出を振り返りながら、自宅のキッチンで過ごす時間のことをお話しいたします。

目を閉じれば浮かぶ。故郷で過ごした春のひととき

小学生の頃、季節に一度は田舎のおじいちゃんの家を訪れていました。見渡す限りの山と畑と田んぼ。大人たちが畑仕事をしているそばで、わたしは大自然の中、一生懸命になって遊んでいたことを覚えています。



春に訪ねた時は、いつもおじいちゃんが山から山菜を採ってきてくれて、おばあちゃんが料理に腕を振るってくれます。みんなで囲む食卓には、いつも栄養たっぷりの新鮮な山菜料理が並べられたものです。

よく食べていたのは、タラの芽の天ぷらやふきの翡翠煮。でもやっぱりおじいちゃんちといえば、畑で取れたアイヌネギをふんだんに使ったジンギスカンでした。アイヌネギとは、本州でいう行者にんにくのことで、部屋中に甘辛い香りが立ち込み、今ならその匂いを思い出してビールが飲めそうなほど。

当時小学生ながらにも、天ぷらはいつも決まって塩で食べていました。わたしの暮らしに山菜があるのはこの頃から。ですが、当時のわたしにとって山菜はまだ大人の味で、すべてがおいしいわけではありませんでした。

旬の素材をキッチンで楽しむ。今だからわかる、苦い味と温かな思い出

地元にいた頃は料理のお手伝いなんて滅多にしていなかったのに、今ではすっかりキッチンに立つことがわたしの日課。冷蔵庫になにがあったっけな~と、頭の中で献立を作りながら買い物をする時間もワクワクしています。

行き慣れたスーパーの店頭で、季節の訪れを感じる瞬間が一年のうちに何回かあって、山菜が並んでいるのを見つけると、「あ!春が来た!!」と、こころは一層高まります。

家に着き、今日の献立が決まったところで、そそくさとはじまるご飯の支度。わたしはいつも料理をする時、簡単な一品を最初に作るんです。まずは小腹を満たすために、出来上がった一品とお酒を片手に、料理の続きを楽しみます。



春の山菜たちは、この一品料理にも活躍してくれます。子どもの頃はわからなかった大人の味も、今ならわかる。山菜料理をしていると、自然と頭の中はおじいちゃんの家で過ごした時のことを辿っていきます。

「おばあちゃんの味ってこんな感じだったかなあ」

「あの頃、大人たちはきっとこれを美味しいと思ってたんだろうなぁ」

当時と同じ気持ちで、同じ景色を見ることはもうできないけれど、そんなことを想像しながら作る時間は、わたしをどこか少し遠くへ運んでくれる気がするんです。これもわたしがキッチンで過ごす時間を大切に思う理由のひとつなのかもしれません。



ご飯が出来上がってくると、おいしい匂いとともに、わたしの気持ちもほぐれていく。キッチンという居場所は、わたしの城なんです。

お酒の付き添いに。おとなの春の山菜レシピ

実際にわたしが作っている、思い出の春の山菜の楽しみ方をご紹介します。

タラの芽の天ぷら

わたしが山菜料理で一番好きなタラの芽の天ぷら。アツアツの天ぷらを、今も変わらず塩でいただきます。可愛らしい見た目ですが、キンキンに冷えたビールと一緒に飲めば満足感が倍増です。

ビールをお茶の香りを楽しめる「粉末緑茶ビール」にすれば、季節感をより一層高めてくれる気がしています。「まろやまな国産粉末緑茶」とお塩と混ぜて爽やかな風味を味わえる「抹茶塩」にしてみるのもいいかもしれませんね。

ふきの煮付け

ふきは、おばあちゃんが作ってくれた優しい味の翡翠煮を目指しています。下処理をした時の宝石のような翡翠色に、こころはまた癒されます。子どもの頃はあまり箸が進まなかったけれど、今ではこの時期に食べたいと思える一品です。

お出汁を含んだふきの翡翠煮は、お茶の焼酎割りと一緒にあわせると良さそうです。

キッチンで過ごす時間を丁寧に。そう心に留めておけば、今まで気づけなかった新しい発見にも、出会えるかもしれない。そんな風に思えた春の台所と私の幸福なひとときでした。