
〈 暮らしとガラス 〉歴史と道のりを振り返る
2021年08月17日
お茶の定期便「TOKYO TEA JOURNAL」VOL.28で特集したガラス。私たちの暮らしのとても身近にある素材ですが、ガラスはいつから、どんな歴史を私たちとともに歩んできたのでしょうか。今回は、その道のりを振り返ってみることとします。
西洋のガラス、日本のガラス
ガラスが人間の生活の中で使われるようになったのは、石器時代のこと。火山から噴き出した溶岩がガラス状に固まった黒曜石が、ナイフや武器として利用されるように。黒曜石は、いわば天然のガラスであり、非常に貴重なものでした。
最初にガラスを人の手で加工したのは、古代メソポタミアが最初だとする説が有力です。
船乗りが砂浜で焚火をしていて、たまたま岩塩が熱で溶け、砂と反応してガラスができたというのです。紀元前1500年頃になると、エジプトでガラスを溶かして加工する方法が可能となります。
溶かしたガラスを粘土で作った型に入れ、押しつぶして成形する方法で、時間もお金もかかるため、王族や高貴な人が使う装飾品となったそうです。
そして紀元前30年頃、今とほぼ同様の「吹きガラス」の手法が古代シリアで発明されます。金属パイプの先端に溶けたガラスを巻きつけ、息を吹き込んで風船のようにふくらませて成形する手法です。
この技法によって、ガラスの生産量は格段に上がり、一般の家庭でもガラスの瓶やコップを使うことができるようになりました。
一方日本では、勾玉などに代表されるように、弥生時代からすでにガラスを加工する技術を持っていたと考えられます。飛鳥・奈良時代には宝物として扱われることはあったものの、器としては陶器が使われることが多く、ガラス製造はほぼ産業としては衰退していたのです。
時は流れ、1549年のフランシスコ・ザビエルの来日などで、西洋文明がもたらされた結果、日本でもガラスが作られるようになります。
ビードロ、ギヤマンと呼ばれたそれらのガラスは熱や衝撃に弱く、生活道具としてよりも、珍品として好まれていたようです。そのうち「切子」という装飾加工技術が人気を博し、特に薩摩切子は技術の水準が高く、美しかったため、全国的に多いに好まれました。
1/保存容器とガラス
明治維新という大きな変化によって、日本のガラス事情は大きく変わります。ガラスの材料であるガラス屑が輸入されるようになり、安価なガラスが作られ、私たちの生活にとって、なくてはならないものへと変わっていきます。
ガラスは通気性がなく、また中に入れるものと化学変化を起こすことがないため、コップや食器としてはもちろん、食品を保存するための容器や、薬瓶としても使用されるようになります。
特に「富山の薬売り」で有名な富山県は、明治・大正期にガラスの製造がさかんに行われ、全国のトップシェアを誇っていたとか。
またガラス瓶といえば、ビールやワイン、日本酒など、お酒の容器としても利用されます。ペットボトルや紙パックなどと異なり、ガラスは酸素を透過しないため長期保存をしても味や香りが変化しにくいことが大きな理由。
ワインやビールは、日光や蛍光灯によっても劣化したり、匂いが変化したりしてしまうため、茶色や緑色に着色されている瓶も多く見られます。
ちなみに、ワインボトルの形の違いは産地の違いによるもの。ボルドーワインは肩が張ってシャープ、ブルゴーニュはなで肩なのが特徴。ボルドーは長期熟成した際の澱がグラスに入らないよう、ブルゴーニュは澱や沈殿物が少ないため、保存しやすいシャープな形になっているそうです。
そしてガラス瓶の芸術といえば、さまざまに意匠を凝らした香水瓶。アルコールに複数の香料を溶かして製造される香水文化はフランスの王侯貴族によって花開きます。
19世紀になると一般富裕層にまで広がり、ルネ・ラリックやバカラなど、一流のガラス工芸家・工房が手がけた優美な瓶が次々に登場し、現在も芸術品として愛される名作が数多くつくられました。
2/器具とガラス
衝撃によって割れてしまうガラスは、脆いものというイメージがあるかもしれません。しかし、ガラスは錆びたり、日焼けしたりして劣化することがほとんどありません。
理科室にある実験器具を思い返してみると、フラスコやビーカー、試験管、シャーレ、温度計など、多くがガラス製だったはず。これはガラスの性質がとても安定しているためです。
またガラスは衝撃だけでなく急激な温度変化によっても割れてしまいますが、それは熱膨張によるもの。外側を急激に熱したり、逆に急に中に熱いものを注いだりすると、外側と内側の膨張率に差が出て割れてしまうのです。
実験などに使うガラスは、この熱膨張率が小さいため、100℃ほどの高温になっても割れることはありません。
電球や真空管など、電気を通す器具の周辺材料としてもガラスは活躍しています。
銅、アルミニウムなど電気を通す物体は導体、シリコンなど、温度によって電気を通す物体は半導体といいますが、ガラスやゴムは電気を通さない絶縁体。電気を通さないうえに透明なガラスが、電球の外側を覆うのにうってつけの素材だったのです。
今では少なくなりましたが、アンプなどに使われる真空管も、電球の原理を利用したもの。
オーディオのアンプはレコード、CD、PCなどによる音楽信号をスピーカーを振動させる大きな電気信号に変換する必要があります。
密閉性の高いガラスで金属を覆い、高い電圧を加えることで音楽信号を大きな電気に変換しているのです。真空管の中のフィラメントがオレンジ色に光るのは、電気が流れている証拠なのです。
3/建築とガラス
光を透過し、密閉性の高いガラスは、建材としての歴史も古く、西暦79年のポンペイ遺跡で浴場の採光窓として使用されていました。
窓に使われるような板ガラスの製法は砂型にガラス生地を流し込んで固める方法から、溶けたガラスを竿の先に取り、回転させて遠心力で広げる方法、吹きガラスの技法で作った円筒を切り開く方法などがありましたが、いずれも大きなサイズのガラスを作ることはできませんでした。
19世紀後半から20世紀に入ると、ローラーによってガラスを引き上げてガラスを板状にする技術が開発され、日本でも旭硝子が板ガラスの製造に乗り出します。
昭和40年代以前の建物のガラスをよく見てみると、少し表面が波打っているのが分かるはず。これは製法の違いによって、今のものに比べると歪みが出るためですが、ノスタルジックな雰囲気を醸し出す魅力にもなっているのです。
現在一般的な板ガラスの製法である「フロート法」が発明されたのは1950年代のこと。
溶かした金属(錫)の上に溶けたガラスを流し込むと、比重の軽いガラスが浮き上がります。この錫の上に平らに広がったガラスを徐々に冷やしていくと、均一な厚みの板ガラスができるるというもの。この技術によって、工業用ガラスはより身近で使いやすいものとなったのです。
星の煌めきを表現した「銀河」、葉脈まで再現している「笹」、小さな四角が紙吹雪のように舞う「色紙」……。これらは昭和40年代に国内の各メーカーが競うように生産したもの。
現在の「フロート法」ではなく、ロールの片面に模様をつけ、その間に溶けたガラスを通す製法のため、今ではほとんど作られていません。
奈良にある「旭屋ガラス店」では、この型板ガラスを使ったお皿やランプシェードなど、アップサイクルしたアイテムを販売。現在は生産が追い付かないほどの人気なのだそう。
知っている人には懐かしく、知らない人には斬新で可愛らしいデザインのガラスとして、幅広い層にその魅力が伝わっているようです。(旭屋ガラス店:asahiyagarasuten.com)
参考資料:
・「古くて新しいガラスの科学と技術―メソポタミア文明からブループラネットの未来まで―」(駒場リサーチキャンパス公開講演)
・観光とやまねっと:https://www.toyamashi-kankoukyoukai.jp/
・リーデル「ENJOY WINE」:https://www.riedel.co.jp/blog/0607_bottle/
・AGC「ガラスの豆知識」:https://www.asahiglassplaza.net/knowledge/
この記事は「TOKYO TEA JOURNAL」VOL.28に収録されています。
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