世界ではまだ知られていない日本茶、輸出のこれまでとこれから。

世界の緑茶の生産量の世界1位は中国。続いて日本が第2位です。かつて「Tea」と言えば紅茶を指すのが一般的だったヨーロッパやアメリカなどでも、緑茶は徐々に浸透し、愛飲者も増えています。「グリーンティーは健康にいい」というイメージもあってか、カフェのドリンクメニューに載ったり、日本食を扱うスーパーマーケットでも購入できるようになったりと、お茶の一種として存在感を増ししつつあるのは事実。しかしながら、まだ世界的な飲料としての認知や地位を確立するまでには至っていないのです。そもそも日本の緑茶はどのような経緯を経て海外へ進出していったのか。ここで、日本のお茶輸出の歴史について辿ってみたいと思います。


中国からやってきた緑茶、日本独自のお茶文化が発展


緑茶は、日本を代表するお茶。しかし、発祥の地は日本ではく、日本のお茶文化は中国から輸入されたことに始まると言われています。ただし、埼玉県さいたま市岩槻区にある縄文時代後期から晩期の集落跡、真福寺泥炭層遺跡で茶葉やお茶の実が化石となったものが発掘されており、日本でも古来から茶の栽培をしていたという可能性も指摘されているのです。とはいえ、通念上、奈良、平安時代に今の中国にあたる唐に留学していた僧の最澄や空海などが茶の種を日本へ持ち帰ったのが日本のお茶文化の始まりとされています。日本のお茶の栽培や製茶を始めたのも、はやり宋代の中国へ留学していた禅僧。栄西は鎌倉時代に茶の種を持ち帰り、肥前平戸に日本初の茶園を開いているほか、茶の薬効や製法などを『喫茶養生記』へ書き記しました。こうして、日本のお茶は時代の流れと共に禅宗の儀礼、上流階級や武士階級のたしなみ、庶民の文化として徐々に広まっていったのです。

 

江戸時代初期、日本のお茶が初めて海外へ


では、日本のお茶が海外へと輸出されるようになったのはいつ頃なのでしょうか。それは今から400年以上の昔、江戸時代のこと。1610年にオランダの東インド会社が平戸でお茶を買い付けてヨーロッパへと持ち帰ったのが、日本茶初の輸出と言われています。時は経ち、江戸時代も終わりに近づいた1853年、「黒船」に乗ったペリーが浦賀に来航。これが緑茶の輸出が盛んになるきっかけとなります。黒船到来の翌年、初代在日領事となるタウンゼント・ハリスが来日し、静岡県の下田や北海道の函館の港を開くなどの「日米和親条約」を締結。この条約の取り結びに際し、日本は貿易開始に関しては拒んだものの、1858年、国内の5港へのアメリカ船の入港や貿易などを約束した「日米修好通商条約」を結びます。ちなみに、在日中のハリス招いて幕府が茶会を開き、煎茶でもてなしたという話も。

こうして日本はアメリカとの貿易をスタートさせるのですが、ここで、緑茶を輸出するために活躍した2人の人物を紹介しましょう。1人は、長崎の女性貿易商の大浦慶。油問屋に生まれた彼女は若くして家業にも携わっており、近い将来、日本の鎖国状態が終わることを見越し、生産が盛んだった九州のお茶を海外へと輸出しようと目論みます。日米和親条約や日米修好通商条約の締結に先駆け、イギリスやアメリカなどに佐賀県の嬉野茶のサンプルを送り、1856年にイギリス人貿易商からアメリカに向けた大量注文を受注。9トン以上もの注文に、嬉野茶だけでは賄うことができず、九州各地にある産地から茶を集めて輸出させるに至ったといいます。やがて輸出先にイギリスやアラビアなどの国々も加わり、大浦慶はお茶の貿易商として大成功を収めたのだとか。

 

長崎県「彼杵」の茶園

もう1人、日本の緑茶輸出に献身したのが茨城県の豪商、中山元成。茨城県西部には、当時は天日乾燥製法で生産されていた猿島茶(さしまちゃ)と呼ばれるお茶があります。が、この製法のお茶には品質に問題があり、中山は京都の宇治から茶師を招いて焙炉法を学ぶなど、品質改良に手を尽くしていました。そして、黒船の来日。ペリーの開国の折衝の場にもいたという中山は、県西部で生産される猿島茶をハリス総領事に売り込むなどし、結果、日米修好通商条約締結を受けて1859年には輸出品目の1つとして緑茶181トンが出荷されることに。中山が地元のお茶の輸出成功に導いたのでした。

 

粗悪なお茶の対米輸出で打撃、規制あえぐ

こうした大浦や中山などの努力もあって、以降、緑茶は生糸などとともに輸出の重要品目となり、江戸時代から明治時代にかけて日本各地の緑茶の産地からの出荷量も増加していきます。しかしながら、貿易に携わっていた外国の貿易商らが利益第一主義であったことなども原因となって、粗悪なお茶を混ぜたり、色付けするなどして日本の緑茶の質を劣化させたことが、結果として評価を下げることになります。

お茶の着色は、保存性を向上させるために行った再製という熱を使った乾燥法の過程で、鉱物などを用いて色付けされており、これが健康を害するのではという不安が、当時の緑茶の最大の輸出国だったアメリカの消費者に広がったのです…。そこで、アメリカは明治16年(1883年)に粗悪茶の輸入を禁じる「贋製茶輸入禁止条例」、明治30年(1897年)に着色などをしたお茶の輸入を禁じる「粗製不正茶輸入禁止条例」などを制定。この対象は日本だけを狙ったものではないものの、日本の茶業界も打撃を受けたといいます。ですが、贋製茶輸入禁止条例などができたことで、お茶の生産者たちにも品質向上などを目指す動きが出始め、1884年には現在の日本茶業中央会の前身も設立されています。

 

戦後の落ち込みも、健康志向や和食ブームで緑茶の人気が上昇


緑茶の生産は明治、大正、昭和初期と増加し、国外へもアメリカを中心に輸出されていたが、2つの世界大戦の影響を受けて輸出は減少。第二次世界大戦後、食糧難に見舞われた日本に対するアメリカからの援助物資の見返り品として緑茶が選ばれたことで、茶の生産が再び活気を増します。そして、1953年には1万5千トンを超す日本茶が輸出されるまでになりますが、その後は中国茶の世界進出や円高の影響や国内需要の増加などがあり、輸出量は減少傾向に。2005年にはわずかに1100トンほど、金額にして約21億円の輸出額にまで落ち込んでしまいました。

しかしながら、近年、再び緑茶の輸出量は増加の一途をたどっているのです。その背景にあるのは、人々の健康志向の高まりや和食ブーム。アメリカやヨーロッパでも緑茶を好んで飲む人が増えており、日本茶の輸入にも期待がかかっています。政府もお茶の輸出には力を入れており、2012年のお茶の輸出額が約50億円だったのに対し、2020年までにはその3倍の150億円の輸出を目指すという方針を発表しています(農林水産省「茶の輸出戦略」より)。近年の輸出が堅調なのは、輸出額が全体の4割を占めるアメリカ。これにシンガポールなどのアジアやドイツなどヨーロッパの国々が続きます。

東日本大震災以降、厳しい残留農薬規制や放射能規制を設けているヨーロッパやシンガポールなどへの輸出は停滞しましたが、抹茶を利用したアイスクリームなどのデザート、ドリンクなどが人気を得たこともあって、2016年には輸出額過去最高の115億円に上るなど、ヨーロッパやシンガポール、香港などへの輸出が急増したという結果も出ているのです。今後、さらなる輸出拡大を狙い、政府はヨーロッパやロシア、中東といった富裕層も多い国々へ、質の良い高級茶などのマーケティングも強化していく考えを示しています。

 

今後も日本の緑茶輸出拡大に大いなる期待

江戸時代初期の輸出に始まり、その時々の時流によって輸出の拡大と減少を交互に経験してきましたが、今再び、日本の緑茶輸出は増加傾向にあるのです。新たなスタイルや精神性、カルチャーによる日本茶の新しいプレゼンテーションが後押ししていくことで、今後更に注目を集める可能性のある日本茶。国内外の需要が伸びることで日本の文化であり原風景であるお茶が、次の世代へ引き継がれていくように、私達茶業者も2020年を正念場として勝負の年を迎えそうです。

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